- ホーム
- 神経科学 Rac1がないと落ち込む
神経科学
Rac1がないと落ち込む
Neuroscience
Depressed Without Rac1
Sci. Signal., 26 March 2013
Vol. 6, Issue 268, p. ec71
[DOI: 10.1126/scisignal.2004173]
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
S. A. Golden, D. J. Christoffel, M. Heshmati, G. E. Hodes, J. Magida, K. Davis, M. E. Cahill, C. Dias, E. Ribeiro, J. L. Ables, P. J. Kennedy, A. J. Robison, J. Gonzalez-Maeso, R. L. Neve, G. Turecki, S. Ghose, C. A. Tamminga, S. J. Russo, Epigenetic regulation of RAC1 induces synaptic remodeling in stress disorders and depression. Nat. Med. 19, 337-344 (2013). [PubMed]
R. S. Duman, Remodeling chromatin and synapses in depression. Nat. Med. 19, 267-268 (2013). [PubMed]
うつ病の慢性社会的敗北ストレスモデルにおいては、比較的小さなマウスが、より大きくより攻撃的なマウスと繰り返し対面させられ、その結果、小さいほうのマウスの大多数が、社会的回避と快感喪失反応を示すようになり(「感受性」マウスと呼ばれる)、残りのマウスは回復力を示す。感受性マウスにおいては、側坐核の中型有棘ニューロンに、「未熟な」または隆起型の形態をもつ樹状突起棘が増加している。樹状突起棘の形態の変化には、細胞骨格形成を制御するタンパク質が関与することから、Goldenらは、Rhoグアノシントリホスファターゼ(GTPase)関連遺伝子を解析し、感受性マウスの側坐核ではRac1の発現が低下しており、この影響は、抗うつ薬イミプラミンの長期投与によって一部改善されるが、回復力のあるマウスではそのような発現低下がないことを見出した。ゲノムワイドプロモーター解析では、感受性マウスのRac1プロモーターの抑制が、ヒストンH3アセチル化の減少とH3 Lys9トリメチル化(H3K27me3)の増加によって示された。HDAC阻害薬を感受性マウスの側坐核内に局所投与すると、社会的回避行動が改善し、Rac1 mRNA量が増加した。感受性マウスでは、側坐核の恒常的活性型Rac1の過剰発現後、社会的回避が軽減された。対照的に、Rac1を欠損したマウスまたは側坐核にドミナントネガティブ型Rac1を過剰発現したマウスは、ストレス感受性の測定のために作られた、攻撃者となるマウスとの接触がより短時間で少ない閾値以下の微小敗北ストレスの後に、社会的回避と快感喪失を示すようになった。慢性的な社会的敗北を経験したマウスでは、側坐核の中型有棘ニューロンに未熟な隆起型の棘が増加した。感受性マウスにおける隆起型棘の密度の変化は、恒常的活性型Rac1の過剰発現によって弱まり、隆起型棘の密度は社会的回避行動と相関した。ストレスを受けていないマウスと微小敗北ストレスを受けたマウスでは、側坐核のRac1の欠失によって、隆起型棘の密度が増加した。死後の側坐核組織標本の解析により、死亡時に薬剤を使用していなかった大うつ病性障害患者では、非うつ病者と比べてRAC1 mRNA量が低く、RAC1 mRNA量はH3アセチル化と相関するが、トリメチル化の状態とは相関しないことが示された。関連する解説記事の中でDumanは、RAC1シグナル伝達を標的とする治療法を用いて、大うつ病性障害を治療できる可能性があると述べている。
W. Wong, Depressed Without Rac1. Sci. Signal. 6, ec71 (2013).