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肺疾患
有害な生存シグナル

Lung Disease
A Damaging Survival Signal

Editor's Choice

Sci. Signal., 14 May 2013
Vol. 6, Issue 275, p. ec105
[DOI: 10.1126/scisignal.2004319]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

Y. Xu, H. Li, B. Bajrami, H. Kwak, S. Cao, P. Liu, J. Zhou, Y. Zhou, H. Zhu, K. Ye, H. R. Luo, Cigarette smoke (CS) and nicotine delay neutrophil spontaneous death via suppressing production of diphosphoinositol pentakisphosphate. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 7726-7731 (2013). [Abstract] [Full Text]

好中球は、自然免疫系の炎症細胞で極めて短命(血中で数時間、組織中で数日間の寿命)である。喫煙による慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者は、好中球の寿命が長い。Xuらは、タバコ煙抽出物またはニコチンの存在下で培養したヒトの好中球は、寿命が長く、生存シグナル伝達キナーゼAktの活性が高いことを明らかにした。α7サブユニットで構成されるニコチン性アセチルコリン受容体の特異的薬理学的阻害剤はニコチンによる好中球死滅の遅延およびAktリン酸化の増加を阻害し、タバコ煙抽出物によるAktリン酸化の増加を抑制した。ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)またはAktを薬理学的に阻害すると、Aktのリン酸化が減少し、タバコ煙抽出物に曝露された好中球の自然死が回復した。Aktがホスホイノシチド3,4,5三リン酸(PIP3)と結合すると、Aktは細胞膜に動員され、そこで活性化される。蛍光融合タンパク質を用いた実験で、初代培養マウス好中球におけるこのAkt膜結合代替指標の存在量が経時的に低下したが、これはタバコ煙抽出物またはニコチンによって部分的に阻害された。Aktの膜への動員はイノシトール(1,3,4,5)リン酸[Ins(1,3,4,5)P4]またはジホスホイノシトールペンタキスリン酸(InsP7)によって競合的に阻害される。好中球は寿命が短く、定常状態の標識に到達しないため、ヒト前骨髄球細胞株HL60を用いてこれらの脂質の存在量を測定した。これらの細胞にはいずれの脂質も検出されたが、タバコ煙抽出物またはニコチンはInsP7の存在量のみを減少させた。InsP7合成酵素であるInsP6キナーゼ1(InsP6K1)をHL60細胞で過剰発現させると、タバコ煙抽出物またはニコチンによるAkt活性の増加および細胞死の減少が阻害された。InsP6K1コードする遺伝子のノックアウトマウスでは、野生型マウスに比べて、タバコ煙誘発性COPDモデルにおける好中球および炎症性サイトカインの肺蓄積が増加し、肺浮腫の発現も亢進していた。このように、InsP7は生存Aktシグナル伝達阻害剤として機能し、タバコ煙はその存在量を減らすことにより、好中球の蓄積および肺の損傷を引き起こす。

N. R. Gough, A Damaging Survival Signal. Sci. Signal. 6, ec105 (2013).

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