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マイクロRNA
低酸素がmiRNAのプロセシングを抑制する
MicroRNAs
Hypoxia Prevents miRNA Processing
Sci. Signal., 21 May 2013
Vol. 6, Issue 276, p. ec111
[DOI: 10.1126/scisignal.2004336]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
J. Shen, W. Xia, Y. B. Khotskaya, L. Huo, K. Nakanishi, S.-O. Lim, Y. Du, Y. Wang, W.-C. Chang, C.-H. Chen, J. L. Hsu, Y. Wu, Y. C. Lam, B. P. James, X. Liu, C.-G. Liu, D. J. Patel, M.-C. Hung, EGFR modulates microRNA maturation in response to hypoxia through phosphorylation of AGO2. Nature 497, 383-387 (2013). [PubMed]
酸素の低下(低酸素)は、低酸素誘導因子(HIF)ファミリーの転写因子の安定化の引き金となり、さらに受容体の細胞内輸送を遅らせることで、エンドソームからの上皮増殖因子受容体(EGFR)によるシグナル伝達を長引かせる。Shenらは、EGFRとmicroRNA(miRNA)プロセシングタンパク質AGO2が、低酸素に応答してエンドソームで相互作用し、それによってEGFRがAGO2のTyr393部位をリン酸化することを明らかにした。低酸素状態が、特定の未熟miRNA前駆体セット(腫瘍抑制miRNAを多く含む)の量をEGFR依存的に増加させた。このことは、これらmiRNAのプロセシングが障害されたことを示唆している。この解釈に一致するように、低酸素に曝露された細胞では、このmiRNAセットが標的とする転写物の量が増加していた。低酸素はAGO2のTyr393リン酸化を促進し、AGO2とRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)ローディング複合体のタンパク質との相互作用を低下させた。低酸素に応答してAGO2 Tyr393依存的にプロセシングが低下したmiRNAは、長いループ構造をもっていた。miRレポーターアッセイからは、このような特性をもつ低酸素制御性miRNAはプロセシングを受けず、その標的は抑制解除されていることが示された。このような長いループ構造を短いループ構造に変換すると、低酸素に曝露された野生型AGO2の過剰発現細胞では、miRNAが効率的にプロセシングされ続けるようになったが、Y393F AGO2突然変異体では変化がなかった。Y393F突然変異を発現している細胞は、野生型AGO2を発現している細胞に比べ、低酸素に応答したアポトーシス細胞死が亢進し、遊走が低下していた。乳がん検体においてリン酸化AGO2の量はHIF量と相関しており、このことは、リン酸化AGO2が低酸素性腫瘍と関連していることを示唆していた。リン酸化AGO2の量は、生存率の不良と相関していた。したがって、EGFRを介するAGO2のリン酸化は、腫瘍抑制因子として働くmiRNAの成熟を抑制することで発がんに寄与し、さらに低酸素状態下での生存を可能にすることで、がんの進展に寄与すると考えられる。
N. R. Gough, Hypoxia Prevents miRNA Processing. Sci. Signal. 6, ec111 (2013).