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がん
膵がんにおけるヘッジホッグシグナル伝達の複合的な役割
Cancer
Complex Roles for Hedgehog Signaling in Pancreatic Cancer
Sci. Signal., 5 August 2014
Vol. 7, Issue 337, p. ec204
DOI: 10.1126/scisignal.2005758
Jason D. Berndt
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
J. J. Lee, R. M. Perera, H. Wang, D. -C. Wu, X. S. Liu, S. Han, J. Fitamant, P. D. Jones, K. S. Ghanta, S. Kawano, J. M. Nagle, V. Deshpande, Y. Boucher, T. Kato, J. K. Chen, J. K. Willmann, N. Bardeesy, P. A. Beachy, Stromal response to Hedgehog signaling restrains pancreatic cancer progression. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111, E3091-E3100 (2014). [Abstract] [Full Text]
膵管腺がん(PDAC)には、線維増生(線維症および間質細胞浸潤)が伴う。分泌型増殖因子Shh(ソニックヘッジホッグ)は、PDAC患者の浸潤腫瘍と転移腫瘍、およびPDACの遺伝的マウスモデルにおけるがん進行の全段階に由来するサンプルで増加する。Shhの発現はPDACの腫瘍上皮に限定されており、間質細胞でShh受容体のSmoothened(Smo)をコードする遺伝子をノックアウトさせるか、Shhシグナル伝達を薬理学的に阻害すると、マウスに移植されたヒトPDAC異種移植片の増殖が低下することから、Shhは腫瘍の増殖を後押しするシグナルをパラクリン様式で送ることが示唆されている。ところが、PDAC患者にSmo阻害薬を用いた臨床試験では、従来の化学療法薬と併用した場合に、有効性はほとんど示されないかまったく示されていない。Leeらは、PDACの遺伝的マウスモデルでShhシグナル伝達を阻害すると、がんの進行が促進されることを見出した。PDACの3つの異なる遺伝的マウスモデルで、膵臓特異的Shhノックアウトまたは臨床的に承認されたSmo阻害薬ビスモデギブによる薬理学的な阻害によってShhシグナル伝達を阻害すると、PDACの進行および致死が促進された。マウスにペプチドセルレチドを注射して急性膵炎を誘発させると、膵臓細胞死に続いて再生が引き起こされるが、膵臓で発がん性KRASを過剰発現するマウスでは、脱分化された細胞の腫瘍化によって再生が阻害される。PDACの遺伝的モデルのうちの1つにセルレチドを注射したマウスにおいてShhシグナル伝達をSAG21kで薬理学的に活性化すると、間質細胞の数が増加し、活性化されたShhシグナル伝達のマーカーを発現する間質細胞の割合が高まり、腫瘍上皮細胞の増殖が低下し、膵臓の腫瘍化された面積が減少した。これらのマウスをビスモデギブで処理すると逆の作用がみられた。このように、今回の結果は、Shhシグナル伝達が腫瘍上皮細胞の増殖を制限する間質線維芽細胞を支えるために必要であるかもしれないことを示唆している。さらに今回の研究は、異種移植モデルがヒト疾患のすべての側面を再現するとは限らず、腫瘍の微小環境がその疾患の進行および予防において重要な役割を果たすことを強調している。
J. D. Berndt, Complex Roles for Hedgehog Signaling in Pancreatic Cancer. Sci. Signal. 7, ec204 (2014).