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がん
がん細胞における代謝の再配線

Cancer
Rewiring the Metabolism of Cancer Cells

Editor's Choice

Sci. Signal., 14 October 2014
Vol. 7, Issue 347, p. ec282
DOI: 10.1126/scisignal.aaa0412

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

N. Srivastava, R. K. Kollipara, D. K. Singh, J. Sudderth, Z. Hu, H. Nguyen, S. Wang, C. G. Humphries, R. Cartens, K. E. Huffman, R. J. DeBerardinis, R. Kittler, Inhibition of cancer cell proliferation by PPARγ is mediated by a metabolic switch that increases reactive oxygen species levels. Cell Metab. 20, 650-661 (2014). [PubMed]

要約 がん細胞は、細胞増殖を可能にするグルコース、脂質、グルタミン代謝を変化させる。転写因子、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)は、脂質およびグルコース代謝に関与する遺伝子の発現を制御し、チアゾリジンジオン(TZD)はこの受容体のアゴニストとして2型糖尿病の治療のために開発されたが、癌治療法として再利用されてきている。Srivastavaらは、いかにPPARγアゴニストが培養がん細胞株およびマウスへ異種移植された腫瘍において増殖を阻害するかを調べた。TZDに晒されたがん細胞株においてPPARγと結合した遺伝子のクロマチン免疫沈降解析と12から48時間の転写応答の解析により、最初期応答の一部として活性化されたPPARγの直接標的遺伝子には、脂質代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子、特にピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4をコードするPDK4が含まれていた。より後期には、細胞周期進行に関与するタンパク質をコードする転写産物が減少し、酸化ストレス応答に関与するタンパク質をコードする転写産物が増加していた。このように、PPARγは脂質代謝を変化させ、細胞周期を阻害する活性酸素種(ROS)の増加を導くようであった。この仮説と一致して、PPARγに陽性のがん細胞のみがTZD曝露に応答した細胞周期タンパク質、レチノブラストーマ(Rb)のリン酸化の減少を示したが、内因性のPPARγの存在量が少ないがん細胞あるいはPPARγをノックダウンしたがん細胞ではみられなかった。PPARγを伴うがん細胞株において、TZD曝露はまた、ROSの増加を刺激し、この増加を抗酸化剤で抑えるとRbのリン酸化の減少が妨げられた。TZD処理による異種移植腫瘍の増殖阻害は、抗酸化剤との同時処理、あるいはその細胞でのPPARγのノックダウンによっても抑えられた。PDK4は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼをリン酸化して阻害し、グルコース酸化から脂肪酸酸化へのスイッチを引き起こす。この遺伝子の発現はしばしば、固形腫瘍で減少している。PDK4の阻害あるいはノックダウンは、TZDによるRbのリン酸化の減少およびROSの増加を抑えた。PDK4の阻害はまた、TZD処理による異種移植腫瘍の増殖抑制を妨げた。TZD曝露細胞における代謝変化の解析は、グルコース消費の増加、乳酸分泌の増加、グルタミンからグルタミン酸への変換の減少、グルタチオン(グルタミン酸から合成され、ROS解毒に関与する分子)の減少を明らかにし、細胞の酸化ストレス対処能を損なう代謝のスイッチと一致していた。グルタミナーゼの阻害あるいはグルタミンの欠乏は、培養細胞においてRbのリン酸化を減少させ、ROSを増加させ、異種移植腫瘍の増殖を阻害した。このように、PPARγアゴニストは、細胞代謝を変化させ、それにより酸化ストレス応答を損ない、増殖停止を誘導する。

N. R. Gough, Rewiring the Metabolism of Cancer Cells. Sci. Signal. 7, ec282 (2014).

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2014年10月14日号

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がん
がん細胞における代謝の再配線

Research Article

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Perspectives

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