• ホーム
  • 宿主−微生物相互作用 細菌があなたの心をかき乱すのかもしれない

宿主−微生物相互作用
細菌があなたの心をかき乱すのかもしれない

Host-microbe Interactions
Bacteria May Mess with Your Mind

Editor's Choice

Sci. Signal., 21 October 2014
Vol. 7, Issue 348, p. ec289
DOI: 10.1126/scisignal.aaa1002

Jason D. Berndt

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

J. D. Meisel, O. Panda, P. Mahanti, F. C. Schroeder, D. H. Kim, Chemosensation of bacterial secondary metabolites modulates neuroendocrine signaling and behavior of C. elegans. Cell 159, 267-280 (2014). [PubMed]

B. B. Williams, A. H. Van Benschoten, P. Cimermancic, M. S. Donia, M. Zimmermann, M. Taketani, A. Ishihara, P. C. Kashyap, J. S. Fraser, M. A. Fischbach, Discovery and characterization of gut microbiota decarboxylases that can produce the neurotransmitter tryptamine. Cell Host Microbe 16, 495-503 (2014). [PubMed]

要約 病原性の共生微生物は、動物の行動や神経系機能など、宿主の生理機能に影響を与える。MeiselらとWilliamsらは、細菌が線虫とヒトの神経活性に直接影響を与えると考えられる2つの経路を発見した。線虫(Caenorhabditis elegans)は、異なる種の細菌に対して異なる行動を示す。C. elegansは、病原性の緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を回避するが、大腸菌(Escherichia coli)を摂食する。Meiselらは、DAF-7(ヒトトランスフォーミング増殖因子β[TGF-β]と相同)シグナル伝達の欠損した線虫はP. aeruginosaを回避できず、感染して死亡することを示した。ASJ化学感受性ニューロンにおいて、daf-7は細菌非存在下では発現しておらず、P. aeruginosaに曝露させると数分以内に発現が亢進するが、E. coliに曝露させても発現は亢進しない。daf-7変異型線虫のASJニューロンでdaf-7をトランスジェニック発現させると、P. aeruginosaに対する回避行動が回復した。Gタンパク質αサブユニットのGPA-2とGPA-3は、ASJニューロンに存在し、P. aeruginosaに誘導されるdaf-7発現と回避行動に必要であった。P. aeruginosaの生化学的解析では、ASJニューロンでdaf-7発現を刺激する分子として、二次代謝産物であるピオケリンとフェナジン-1-カルボキサミド(PCN)が同定された。さらに、PCNは、ASJニューロンで非常に急速な(6秒以内)カルシウム増加を引き起こした。このように、C. elegansでは、病原性細菌由来の代謝産物がニューロン内のGタンパク質シグナル伝達を活性化し、ニューロンの活性を変化させることによって、回避行動を促進するシグナルを刺激するものと考えられる。
Williamsらは、ヒト腸内によくみられる細菌種のClostridium sporogenesが宿主内で神経調節性を示しうる分子を産生することを見出した。真菌、植物、動物など多くの真核生物種では、トリプトファン脱炭酸酵素によってトリプトファンから代謝産物トリプタミンが産生される。哺乳類におけるトリプタミンの作用の1つとして、トリプタミンはセロトニン受容体を活性化する。トリプトファン脱炭酸酵素は、細菌ではまれであると考えられているが、Williamsらは、C. sporogenesが機能性のトリプトファン脱炭酸酵素をもち、トリプタミンを分泌することを発見した。他の微生物種由来の候補をスクリーニングすると、Ruminococcus gnavusで別の機能性トリプトファン脱炭酸酵素が同定され、便サンプル由来の配列解析では、健康なヒトの10%以上がこれらの脱炭酸酵素の相同遺伝子を有する細菌を抱えていることが明らかになった。このように、これら2件の研究から得られたデータは、ニューロンに直接作用することによって宿主の行動に影響する代謝産物を、多様な細菌が産生しているかもしれないことを示唆している。

J. D. Berndt, Bacteria May Mess with Your Mind. Sci. Signal. 7, ec289 (2014).

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2014年10月21日号

Editor's Choice

宿主−微生物相互作用
細菌があなたの心をかき乱すのかもしれない

Research Article

ナイーブCD8+T細胞においてプロテインキナーゼD2はT細胞受容体刺激によるジアシルグリセロールシグナリング伝達のデジタル増幅因子である

心筋細胞のRhoAシグナル伝達は、ストレス誘導性心不全から保護するが、心臓線維症を促進する

Notchシグナル伝達は細胞分裂前に作用し神経前駆細胞の非対称分裂と細胞運命決定を促す

Perspectives

神経前駆細胞のNotch活性は細胞質分裂と非対称な分化を調整する

最新のEditor's Choice記事

2024年4月9日号

伸張を感知して食欲を抑える

2024年4月2日号

アルツハイマー病に関連する脂肪滴

2024年3月26日号

傷つけるのではなく助けるようにミクログリアにバイアスをかける

2024年3月19日号

痒みを分極化する

2024年3月12日号

抗体の脂肪への蓄積による老化