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代謝
decretinホルモンの探査

Metabolism
Finding the decretin hormone

Editor's Choice

Sci. Signal., 10 February 2015
Vol. 8, Issue 363, p. ec29
DOI: 10.1126/scisignal.aaa8672

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

R. W. Alfa, S. Park, K.-R. Skelly, G. Poffenberger, N. Jain, X. Gu, L. Kockel, J. Wang, Y. Liu, A. C. Powers, S. K. Kim, Suppression of insulin production and secretion by a decretin hormone. Cell Metab. 21, 323-333 (2015). [PubMed]

要約 インスリンは糖代謝の主制御因子として、厳密に調節されるホルモンである。インクレチンと呼ばれる数種のホルモンは、グルコースの増加に応じてインスリン分泌を亢進するが、長期の飢餓に応じてインスリン分泌を低下させる内分泌ホルモンは、ほとんど特定されていない。Alfaらはショウジョウバエ(Drosophila)において特定の飢餓調節遺伝子を異所性に発現させ、インスリン欠乏に関連した表現型を引き起こすものとしてCG8317を特定し、これをギリシア神話の飢餓の女神になぞらえlimostatinlst)と命名した。ハエ成虫におけるlst mRNA存在量は、飢餓状態の24時間後にピークに達し、糖質を再給餌することで減少したが、タンパク質の再給餌によっては減少しなかった。このlst遺伝子は、(分泌に関する)シグナルペプチドと数ヵ所の塩基性二残基の切断部位をもつ、推定プロペプチドをコードしている。塩基性二残基切断部位の2つのアルギニン残基は、過剰発現に伴うインスリン欠乏表現型に不可欠であった。Pエレメントが挿入されてlstを欠損した(lst1)ハエには、低血糖、肥満、短命などインスリン過多に関連した表現型が認められた。さらにこれらのハエでは、循環血中のタグ付加型シグナリングインスリン様ペプチド2(Ilp2)の存在量も増加していた。Ilp分泌に不可欠な、インスリン産生細胞(IPC、膵β細胞と同等なハエの細胞)の電気活動をサイレンシングしたとき、対照ハエとlst1ハエのトリグリセリド含量の差が縮小した。lstプロモーターレポーターを発現しているハエの解析から、Lstは、インクレチンホルモンも産生している腸管関連内分泌細胞によって産生されることが示唆された。これらの細胞のlstをノックダウンしたハエは、lst1ハエと同様の表現型を示し、一方でこれらの細胞でlstを特異的に発現させたとき、lst1表現型がレスキューされた。Lstからの15アミノ酸ペプチド(Lst-15)を添加すると、IPC中のカルシウムシグナルが抑制され、この細胞からのIlp2放出が抑制された。lst1では発現の亢進を示し、かつlstが過剰発現しているとき発現が低下している、一般的にペプチドホルモンの標的であるGタンパク質共役受容体(GPCR)をコードする遺伝子をスクリーニングした結果、CG9918を同定したCG9918をIPC特異的にノックダウンすると、lst1の表現型が模写され、IPCからのIlp2分泌に対するLst-15の減弱効果が抑制された。哺乳動物でCG9918と最も類似しているGPCRはニューロメジンU受容体(NMUR)であり、NMUR1は末梢で認められる。NMUR1のタンパク質およびmRNAはヒト膵β細胞中に存在し、リガンドNMUをコードする遺伝子は胃および十二指腸(ヒトの前腸、ハエにおけるLst産生細胞のアナログ)で発現していた。ヒト膵島細胞にNMU-25を添加したとき、グルコース刺激性のインスリン放出が抑制され、肥満に関連したNMUの変異型に添加したときインスリン放出抑制は認められなかった。このように、Lst-15とNMU-25は内分泌decretinホルモンとして機能するようである。

N. R. Gough, Finding the decretin hormone. Sci. Signal. 8, ec29 (2015).

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Editor's Choice

代謝
decretinホルモンの探査

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