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細胞生物学
TSC1は自立している
Cell Biology
TSC1 strikes out on its own
Sci. Signal., 24 March 2015
Vol. 8, Issue 369, p. ec66
DOI: 10.1126/scisignal.aab1622
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
A. Thien, M. T. Prentzell, B. Holzwarth, K. Kläsener, I. Kuper, C. Boehlke, A. G. Sonntag, S. Ruf, L. Maerz, R. Nitschke, S. -N. Grellscheid, M. Reth, G. Walz, R. Baumeister, E. Neumann-Haefelin, K. Thedieck, TSC1 activates TGF-β-Smad2/3 signaling in growth arrest and epithelial-to-mesenchymal transition. Dev. Cell. 32, 617-630 (2015). [PubMed]
要約 結節性硬化症1型と2型(TSC1とTSC2)のヘテロ二量体は、ラパマイシンの機構的標的複合体1(mTORC1)を介したシグナル伝達を阻害し、細胞の成長と増殖を低下させる。Thienらは、TSC1がTSC2やmTORC1とは独立して機能し、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)シグナル伝達を促進することを見出した。Smad2とSmad3は、活性化されたTGF-β受容体複合体によってリン酸化されるとSmad4に結合し、核内に移行して遺伝子発現を直接的に調節し、増殖停止や上皮間葉転換(EMT)などのさまざまな応答を誘発する。HeLa細胞で、RNA干渉によってTSC1をノックダウンさせると、Smad2とSmad3のリン酸化と核内への移行は減少し、これらの標的遺伝子のうちの1つでは、TGF-β1リガンドによる刺激に応答した発現が減少した。このとき、BMP(bone morphogenetic protein、骨形成タンパク質)に媒介されるSmad1、Smad5、Smad8によるシグナル伝達は阻害されなかった。TSC2をノックダウンさせた場合には、TSC1のときのような減少はみられなかった。いくつかの異なる手法でmTORC1シグナル伝達を阻害しても、TGF-β1に誘発されるSmad2とSmad3のリン酸化には影響しなかった。近接ライゲーションアッセイ(PLA)と免疫共沈降法の実験では、TGF-β刺激を受けて、TSC1はSmad2、Smad3、TGF-β受容体のTβR-Iと複合体を形成した。TSC1は、Smad2とSmad3がTGF-β1に応答してTβR-Iと会合するのを促進した。キナーゼAktは、インスリンとホスホイノシチド3キナーゼの下流で、TSC2をリン酸化してTSC1-TSC2複合体を崩壊させることによって、TSC1-TSC2複合体を阻害する。恒常的活性型Aktを発現させると、Smad2とSmad3のTβR-Iに依存したリン酸化が刺激され、TβR-I、Smad2、Smad3とTSC1の会合が促進された。また、インスリンはTGF-β1に誘発されるSmad2とSmad3のリン酸化を促進し、PI3Kシグナル伝達のアンタゴニストであるPTENはTGF-β1に誘発されるSmad2とSmad3のリン酸化を阻害した。このようにAktは、mTORC1シグナル伝達を抑制するTSC1-TSC2複合体の能力を阻害する一方で、TGF-βシグナル伝達を促進するTSC1の能力を促進する。TGF-β1で処理されたマウス培養細胞では、増殖停止や、EMTの特徴であるSmad4に依存した形態学的変化を効率的に誘発するためにTSC1が必要であった。恒常的活性型Aktを発現する細胞では、TGF-β1に応答して細胞増殖は停止したが、EMTは誘発されなかった。これはおそらく、Aktにはもうひとつ別の標的があり、その標的がEMTを調節しているためと思われる。これらの知見は、インスリン-PI3K-Aktシグナル伝達とTGF-β経路を機能的に関連づけるものであり、PI3K-Akt軸を標的とするがん治療に重要な結果をもたらす。Aktの活性を抑える薬物には、TGF-βシグナル伝達に依存する増殖停止の減少による望ましくない副作用が伴うかもしれない。
A. M. VanHook, TSC1 strikes out on its own. Sci. Signal. 8, ec66 (2015).