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アルツハイマー病ではアセチル化タウがシナプス可塑性を破壊する

Acetylated tau disrupts synaptic plasticity in Alzheimer’s disease

Editor's Choice

Sci. Signal. 03 May 2016:
Vol. 9, Issue 426, pp. ec102
DOI: 10.1126/scisignal.aag0022

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

T. E. Tracy, P. D. Sohn, S. S. Minami, C. Wang, S.-W. Min, Y. Li, Y. Zhou, D. Le, I. Lo, R. Ponnusamy, X. Cong, B. Schilling, L. M. Ellerby, R. L. Huganir, L. Gan, Acetylated tau obstructs KIBRA-mediated signaling in synaptic plasticity and promotes tauopathy-related memory loss. Neuron 90, 245-260 (2016). [PubMed]

要約 アルツハイマー病(AD)は、複数の原因があると考えられる神経変性疾患である。中でも、切断型のタウタンパク質で構成される神経原線維変化の蓄積が、AD患者におけるシナプス機能障害とその結果生じる認知機能低下に関与するとされている。Tracyらは、タウがこの作用を及ぼす際の機構を見出した。認知症を有したAD患者の死後脳組織とADモデルマウスの海馬においては、Lys274-およびLys281-アセチル化タウの存在量が増加していた。Lys274およびLys281でのアセチル化を模倣する変異を加えたヒトタウ(tauKQ)を発現するトランスジェニックマウスでは、脳内の切断型(病原性)タウの存在量が増加し、海馬スライスにおける長期増強(LTP、シナプス可塑性の一形式)が減少し、空間記憶と文脈弁別を評価する行動試験での成績が不良であった。LTPには、樹状突起棘のシナプス後膜へのα-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸受容体(AMPAR)の挿入が必要であり、AMPAR輸送にはアクチン重合が必要である。タウまたはアセチル化不能なタウ変異体(tauKR)をトランスフェクトした培養マウス海馬ニューロンに刺激を加えると、棘突起におけるAMPARサブユニットGluA1の表面存在量とF-アクチン(重合型アクチン)の総存在量が増加したが、tauKQをトランスフェクトした場合にはそのような増加は認められなかった。健常なニューロンのシナプス後肥厚部には、タンパク質KIBRAが豊富に存在する。しかし、認知症のAD患者の死後脳組織では、KIBRA存在量が低下し、その存在量はアセチル化タウの存在量と強い負の相関性を示した。tauKQマウスの脳組織では、野生型マウスの脳組織と比較して、海馬ニューロンの棘突起におけるKIBRA存在量が低下していた。tauKQを発現するニューロンにおいて、KIBRAの過剰発現により、GluA1のシナプスへの動員とF-アクチンの存在量が回復した。これらの結果から、タウの異常なアセチル化が、ニューロンにおけるKIBRA介在性のAMPAR輸送を障害することによって、AD患者の認知障害に関与することが示唆される。

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2016年5月3日号

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アルツハイマー病ではアセチル化タウがシナプス可塑性を破壊する

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