T細胞の生物学を解明する

Fueling T cell biology

Editor's Choice

Sci. Signal. 21 Jun 2016:
Vol. 9, Issue 433, pp. ec143
DOI: 10.1126/scisignal.aag3262

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

M. Swamy, S. Pathak, K. M. Grzes, S. Damerow, L. V. Sinclair, D. M. F. van Aalten, D. A. Cantrell, Glucose and glutamine fuel protein O-GlcNAcylation to control T cell self-renewal and malignancy. Nat. Immunol. 17, 712-720 (2016). [PubMed]

W. H. Yang, J. D. Marth, Protein glycosylation energizes T cells. Nat. Immunol. 17, 613-614 (2016). [PubMed]

要約

T細胞は、その活性化と増殖のためのタンパク質合成およびエネルギー所要量を支持するため、グルコースやグルタミンなど栄養素の取り込みを増加させる。これらの栄養素はヘキソサミン生合成経路の活性化にも関与し、O-GlcNAcトランスフェラーゼ(OGT:タンパク質のセリンまたはスレオニン上のO-GlcNAc化と呼ばれる可逆的翻訳後修飾を触媒する酵素)の基質であるUDP-GlcNAcを生成する。Swamyらは、T細胞受容体(TCR)が刺激されたマウスT細胞では非刺激細胞に比べて、グルコースおよびグルタミン輸送体量が増加しているほか、UDP-GlcNAc細胞内濃度も増加していることを見いだした。ウェスタンブロットおよびフローサイトメトリー解析からは、TCR刺激性のT細胞ではナイーブT細胞に比べてO-GlcNAc化タンパク質の量が増加したことが示された。この反応は、T細胞活性化に必要な、細胞増殖および細胞周期への再入に先行する反応である。OGTをコードする遺伝子を、T細胞分化の様々なステージで条件付きまたは誘導性にノックアウトしたマウスを用いた一連の実験を通して、OGTは以下のことに必要であることが明らかになった。(i)ダブルネガティブ胸腺細胞のNotch依存性の自己再生。(ii)CD4/CD8ダブルポジティブ胸腺細胞の、CD4またはCD8のシングルポジティブ胸腺細胞および成熟T細胞への移行。(iii)インターロイキン-2に応答した細胞障害性T細胞(CTL)のTCR刺激性の増殖。マウスにおいて胸腺細胞のホスファターゼPTENをコードする遺伝子をノックアウトすると、T細胞の急性リンパ芽球性白血病が生じたが、Pten欠損胸腺細胞でOgtをノックアウトしてもその悪性転換は生じなかった。CTLにおけるOgtの誘導性ノックアウトはc-Mycタンパク質の存在量を減少させ、一方で、タンパク質からO-GlcNAc分子を除去する酵素の阻害剤で処理したT細胞のTCR刺激は、c-Myc存在量を増加させた。ウェスタンブロット解析から、T細胞においてc-Mycは確かにO-GlcNAc化されたことが示された。c-MycはTCR刺激に応答し、グルコースおよびグルタミン輸送体をコードする遺伝子の発現を誘導した。TCR刺激を受けた野生型CD4+T細胞は、タンパク質のO-GlcNAc化の亢進を示した一方、TCR刺激を受けたc-Myc欠損型CD4+T細胞は亢進を示さなかった。まとめるとこれらのデータは、グルコースおよびグルタミンはc-Mycなどのタンパク質のO-GlcNAc化をフィードバックループにおいて刺激し、T細胞の複製、増殖および形質転換を誘導することを示唆している。YangおよびMarthが論じているように、これらの所見は、タンパク質のO-GlcNAc化が細胞の代謝状態を報告し、「代謝チェックポイント」の種類に寄与する可能性があることを示唆している。

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