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肥満の母親から生まれた新生児の健康の改善

Improving the health of newborns of obese mothers

Editor's Choice

Sci. Signal. 25 Oct 2016:
Vol. 9, Issue 451, pp. ec246
DOI: 10.1126/scisignal.aal2588

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

Q. Yang, X. Liang, X. Sun, L. Zhang, X. Fu, C. J. Rogers, A. Berim, S. Zhang, S. Wang, B. Wang, M. Foretz, B. Viollet, D. R. Gang, B. D. Rodgers, M.-J. Zhu, M. Du, AMPK/α-ketoglutarate axis dynamically mediates DNA demethylation in the Prdm16 promoter and brown adipogenesis. Cell Metab. 24, 542-554 (2016). [PubMed]

要約

代謝異常は、成人と小児だけでなく、新生児の健康リスクをも示している。たとえば、肥満の母親から生まれた新生児は死亡率がより高く、乳幼児突然死症候群(SIDS)は褐色脂肪組織(BAT)の減少と関連している。Yangらは、エネルギー貯蔵が枯渇したときに(AMP存在量がATPと比較して高いとき)活性化される細胞のエネルギーセンサーとして機能するキナーゼAMPKが、細胞自律機構を介したBATの発生に必要であることを明らかにした。マウスでAMPKのサブユニットをコードする遺伝子Prkaa1をノックアウトすると、BATの発生が損なわれ、それによって体温調節ができなくなった。このような表現型は肥満の母親から生まれた新生仔マウスでもみられる。野生型BAT前駆体を野生型マウスのBAT発生部位に移植すると、定着し、BATになった。対照的に、Prkaa1欠損型前駆体を野生型マウスに移植すると、定着が悪く、熱発生能の低下がみられたことから、BAT前駆体でAMPK活性が必要とされることが確認された。Prkaa1ノックアウトマウス由来のBAT前駆細胞では、BATの分化決定と維持に必要な転写因子PRDM16をコードする遺伝子の発現が損なわれており、培養下でPRDM16を過剰発現させると、褐色脂肪細胞の分化が回復した。肥満の母親マウス由来の胚では、対照マウス由来の胚に比べてリン酸化が減少していた、つまり、発生中のBAT内での活性型AMPKが減少していた。肥満の母親マウスから生まれた新生仔と離乳仔では、BATでのPrdm16の発現も減少しており、体温調節能が損なわれていた。Prkaa1ノックアウト細胞では、α-ケトグルタル酸依存性TETファミリーの酵素によって媒介され、Prdm16座位の発現を亢進させるDNAの脱メチル化が損なわれていた。BAT、またはin vitroで分化させた褐色脂肪細胞では、前駆細胞に比べてα-ケトグルタル酸の濃度が高かった。対照的に、Prkaa1ノックアウト細胞では、α-ケトグルタル酸の産生に関与する酵素のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)をコードする遺伝子の発現が誘導されないこと、また、IDH2を抑制するアセチル化が増加したことが原因で、代謝産物であるα-ケトグルタル酸の増加はみられなかった。α-ケトグルタル酸の膜透過性アナログを添加すると、培養下での分化が誘導され、褐色脂肪生成の増加のした褐色脂肪細胞前駆体の核抽出物中のTET活性が促進されたが、拮抗阻害剤を添加すると、逆の作用が認められた。肥満の母親から生まれ、治療を受けなかったマウスと比べると、出生後にAMPKを活性化させる薬物(AICARまたはメトホルミン)を投与されたマウスでは、BATの重量が部分的に回復し、BATの形態も白色細胞組織に似た形態ではなく「褐色」へと回復し、内臓脂肪の重量も減少した。このように、臨床的に使用されている薬物を用いてAMPKを標的とすることは、肥満の母親から生まれる新生児にとって利益となる可能性がある。

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2016年10月25日号

Editor's Choice

肥満の母親から生まれた新生児の健康の改善

Research Article

In vivoではグルココルチコイドおよび食事応答経路が脂肪細胞前駆細胞の活性を切り替える

上皮のGqおよびG11シグナル伝達の欠損はTGFβ産生を阻害するがIL-33によるマクロファージの極性化および肺気腫を促進する

Research Resources

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