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T細胞接着のためのカルシニューリン
Calcineurin for T cell adhesion
Sci. Signal. 07 Feb 2017:
Vol. 10, Issue 465,
DOI: 10.1126/scisignal.aam9146
John F. Foley
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
D. Dutta, V. A. Barr, I. Akpan, P. R. Mittelstadt, L. I. Singha, L. E. Samelson, J. D. Ashwell, Recruitment of calcineurin to the TCR positively regulates T cell activation. Nat. Immunol. 18, 196-204 (2017).
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ホスファターゼであるカルシニューリンは転写因子を活性化するのみならず、T細胞の活性化の際にT細胞の接着を促進する。
要約
抗原を介したT細胞受容体(TCR)の刺激により、キナーゼであるLckおよびZAP-70の逐次的活性化ならびにアダプター分子LATおよびSLP-76のリン酸化が生じ、これがT細胞の活性化に必要な他のアダプターおよびシグナル伝達タンパク質を動員するが、これにはCa2+のシグナル伝達が関与している。その結果生じる細胞内Ca2+濃度の増加は、セリン・スレオニンホスファターゼであるカルシニューリンを活性化し、これが、核に移行してサイトカインをコードする遺伝子の発現を誘導する転写因子である、NFATファミリーのメンバーを脱リン酸化して活性化する。免疫抑制薬であるシクロスポリンA(CsA)およびFK506は、カルシニューリンの活性化を遮断することでNFATの機能およびT細胞の活性化を阻害すると考えられる。Duttaらは、TCRにより刺激されたヒトT細胞において、CsAとFK506の投与またはカルシニューリンのノックダウンは、Lckを介したZAP-70のリン酸化を阻害することを見出した。共焦点顕微鏡および免疫沈降法を用いた試験から、カルシニューリンはTCRの活性化とLckのキナーゼ活性を必要とする機序を介して、ZAP-70と一過性に会合することが示された。TCRにより刺激されたT細胞においてカルシニューリンを阻害したとき、LckのSer59部位でのリン酸化が亢進した。S59A変異型Lckを発現している細胞では野生型Lckを発現している細胞と比べ、TCR下流のシグナル伝達が亢進しており、Ser59のリン酸化は抑制性であることを示唆していた。Lckの阻害と同様に、CsAおよびFK506はコーティングされたプレートへのインテグリン依存性のT細胞接着を阻害した。しかし、薬剤処理されていないT細胞のインテグリンを介したプレートへの接着は、NFAT活性に非依存性であった。まとめると、これらのデータは、TCRの刺激によってTCR複合体へのカルシニューリンの動員が生じ、そこでカルシニューリンはLckの抑制性セリン部位を脱リン酸化すること、そのためにNFAT非依存的なTCRシグナル伝達および接着が可能になることを示唆している。以上のようにこれらの所見から、CsAおよびFK506がT細胞活性化を阻害して免疫応答を抑制する、もう1つの機序が確立された。