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免疫療法としてのタモキシフェン

Tamoxifen as an immunotherapy

Editor's Choice

Sci. Signal. 14 Feb 2017:
Vol. 10, Issue 466,
DOI: 10.1126/scisignal.aam9611

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

N. Svoronos, A. Perales-Puchalt, M. J. Allegrezza, M. R. Rutkowski, K. K. Payne, A. J. Tesone, J. M. Nguyen, T. J. Curiel, M. G. Cadungog, S. Singhal, E. B. Eruslanov, P. Zhang, J. Tchou, R. Zhang, J. R. Conejo-Garcia,Tumor cell-independent estrogen signaling drives disease progression through mobilization of myeloid-derived suppressor cells. Cancer Discov. 7, 72-85 (2017).
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抗エストロゲン薬は、免疫抑制細胞の増殖と活性を制限することによって一部のエストロゲン受容体陰性腫瘍を治療する可能性がある。

要約

エストロゲンシグナル伝達は一部の乳がんの進行を加速するため、エストロゲン受容体(ER)陽性腫瘍を有する患者の治療には、エストロゲンに媒介されるERの活性化を阻害するER部分アゴニストのタモキシフェンが用いられる。しかし、この療法はER陽性卵巣がんを有する患者にはあまり有効でなく、ER陰性乳がんを有する患者には投与されない。結果的に、タモキシフェンは、ER陰性腫瘍を有する卵巣がん患者では研究が進んでいない。Svoronosらは、抗エストロゲン化合物が一部のER陰性腫瘍を有する患者に有効である可能性を示した。卵巣腫瘍では、骨髄系由来免疫抑制細胞(MDSC)と免疫抑制活性を有する炎症性樹状細胞の広範な浸潤が認められることも多い。マウスおよびがん患者から採取した骨髄由来骨髄前駆細胞の培養では、ERα依存性エストロゲンシグナル伝達によってJAK2-STAT3経路が亢進され、それによってMDSCの分化と免疫抑制活性が刺激された。卵巣がん腫瘍検体のバイオインフォマティクス解析では、エストロゲン生合成酵素をコードする遺伝子の発現が細胞傷害性T細胞の活性マーカーと浸潤マーカーの減少と相関することが明らかになった。ERα陰性卵巣がんマウスモデルでは、卵巣の除去またはタモキシフェンによる治療によって、MDSCの数が減少し、腫瘍に浸潤してマウスの生存時間を延長するエフェクターおよび細胞傷害性T細胞の数が増加した、一方でエストラジオールに応答しては逆の作用がみられた。ところが、これらの作用はEsr1(ERα)ノックアウトマウス、Rag1ノックアウトマウス、MDSC枯渇マウスでは認められなかったことから、獲得免疫系のERαシグナル伝達はタモキシフェンの腫瘍抑制作用とエストロゲンの腫瘍促進作用を媒介することが示唆された。これらの現象は、タモキシフェン非感受性のメラノーマ細胞、肺がん細胞、乳がん細胞を注入した同系マウスでも認められた。ERの部分アゴニストであるタモキシフェンは、患者に副作用を引き起こすため、タモキシフェンから利益を得られる可能性がもっとも高いのはどの患者なのか、どうすればその効果を最大化できるのかを知ることが重要である。今回の知見は、タモキシフェンがER陰性腫瘍を有する患者に対する免疫療法になりうることを示唆するだけでなく、患者を層別化する際には腫瘍微小環境にある細胞の薬物応答性も腫瘍細胞の薬物感受性と同様に検討すべきであることを強調している。

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2017年2月14日号

Editor's Choice

免疫療法としてのタモキシフェン

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