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Ca2+サイクリングによって熱を産生する
Generating heat through Ca2+ cycling
Sci. Signal. 12 Dec 2017:
Vol. 10, Issue 509, eaar7068
DOI: 10.1126/scisignal.aar7068
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
K. Ikeda, Q. Kang, T. Yoneshiro, J. P. Camporez, H. Maki, M. Homma, K. Shinoda, Y. Chen, X. Lu, P. Maretich, K.Tajima, K. M. Ajuwon, T. Soga, S. Kajimura, UCP1-independent signaling involving SERCA2b-mediated calcium cycling regulates beige fat thermogenesis and systemic glucose homeostasis. Nat. Med. 23, 1454-1465(2017).
Google Scholar
D. Gamu, A. R. Tupling, Fattening the role of Ca2+ cycling in adaptive thermogenesis. Nat. Med. 23, 1403-1404(2017).
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ベージュ脂肪は、RyR2とSERCA2bを介してCa2+を循環させることによって、全身のエネルギー恒常性を調節する。
要約
タンパク質UCP1は、褐色脂肪やベージュ脂肪(褐色脂肪の性質の一部を獲得した白色脂肪)などの熱産生組織が、ミトコンドリア呼吸をATP産生から脱共役させ、低温またはノルエピネフリンに反応して熱を産生できるようにする。Ikedaらは、Fabp4 プロモーターの制御下で転写調節因子Prdm16 を過剰発現させることにより、 白色脂肪組織(WAT)におけるベージュ脂肪細胞の生合成を増強したUcp1-/- マウス(Prdm16 Tg × Ucp1-/- マウス)を用いて、ベージュ脂肪におけるUCP1非依存性の熱産生機構を検討した。 Ucp1-/- マウスと異なり、Prdm16 Tg × Ucp1-/- マウスでは、低温条件下で体温が維持された。さらに、Prdm16 Tg × Ucp1-/- マウスの鼠径部WATは、Prdm16を過剰発現しない対照マウスの鼠径部WATと比べて、ノルエピネフリンに反応して温度がより大きく上昇した。Ucp1-/- マウスと比較して、Prdm16 Tg × Ucp1-/- マウスでは、高脂肪餌摂取時の体重増加が少なく、耐糖能が良好で、ベージュ脂肪における解糖系を介するグルコース酸化の増強が認められた。Prdm16 Tg × Ucp1-/- マウスの鼠径部WATのRNA配列解析により、小胞体(ER)または筋小胞体(SR)からCa2+ を放出する受容体をコードする Ryr2と、ERまたはSRのCa2+ ストアを補充するATPaseをコードするSerca2bの発現増加が認められた。これらの結果から、RyR2とSERCA2bを介するCa2+ サイクリング(GamuとTuplingが指摘したように、エネルギーのかかる過程)が、ベージュ脂肪細胞におけるUCP1非依存性の熱産生を仲介することが示唆された。初代培養ベージュ脂肪細胞において、これらの遺伝子の発現がノルエピネフリンによって増加し、Ucp1-/- ベージュ脂肪細胞におけるノルエピネフリン誘導性の酸素消費速度の上昇は、薬理学的SERCA阻害またはAtp2a2(SERCA2bをコードする遺伝子)の遺伝子破壊によって抑制された。脂肪組織にAtp2a2を発現しないマウスの鼠径部WATでは、ノルエピネフリン誘導性の温度上昇が抑制された。逆に、RyR2の存在量、安定性、あるいは活性を増加させる実験的操作により、Ucp1-/- ベージュ脂肪細胞またはマウスにおけるノルエピネフリン誘導性の酸素消費の増加が増強された。ノルエピネフリンは、 Ucp1-/-ベージュ脂肪細胞またはPrdm16を過剰発現するブタ脂肪細胞(UCP1を天然に欠損)において解糖系を増強し、これらの作用は、Atp2a2のノックダウンによって阻害された。以上の結果から、ベージュ脂肪は、UCP1依存性と非依存性の両機構を介して全身のエネルギー恒常性を調節する、重要な因子であることが示唆される。