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新たなつながり:学習障害におけるシグナル伝達

New connections: Signaling in learning disability

Editor's Choice

Sci. Signal. 16 Jan 2018:
Vol. 11, Issue 513, eaas9779
DOI: 10.1126/scisignal.aas9779

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

V. S. Achuta, T. Möykkynen, U.-K. Peteri, G. Turconi, C. Rivera, K. Keinänen, M. L. Castrén, Functional changes of AMPA responses in human induced pluripotent stem cell-derived neural progenitors in fragile X syndrome. Sci. Signal. 11,eaan8784 (2018).
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L. K. Ferrarelli, Special issue: Fragile X syndrome. Sci. Signal. 10, eaar3825 (2017).
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J. N. Koberstein, S. G. Poplawski, M. E. Wimmer, G. Porcari, C. Kao, B. Gomes, D. Risso, H. Hakonarson, N. R. Zhang, R. T. Schultz, T. Abel, L. Peixoto, Learning-dependent chromatin remodeling highlights noncoding regulatory regions linked to autism. Sci. Signal. 11, eaan6500 (2018).
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J. Li, B. Wilkinson, V. A. Clementel, J. Hou, T. J. O'Dell, M. P. Coba, Long-term potentiation modulates synaptic phosphorylation networks and reshapes the structure of the postsynaptic interactome. Sci. Signal. 9, rs8 (2016).
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本誌今週号のResearchおよびArchivesにより学習障害の原因の理解に近づく

要約

学習障害は患者本人とその家族の両方にとって悲惨なものになりえる。脆弱X症候群(FXS)は、学習とその他の種々の行動に重要なシナプス可塑性が障害される、神経機能と脳内回路の変化を伴う知的障害である。これらの変化には、ニューロンの興奮性の亢進、神経構造の成熟障害、および神経幹細胞の分化異常がある。これら表現型の研究対象は通常、動物(ほとんどがハエ、マウスまたはラット)のニューロンに限られ、その分子的枠組みに複雑な種差が入り込む可能性がある。Achutaらはヒト線維芽細胞を操作して神経前駆細胞を作製した。FXSの男児から採取した細胞では、AMPA受容体サブユニットGluA2の発現が低下し、その結果としてGluA2を欠損したAMPA受容体数が増加していた。この受容体は細胞へのカルシウム流入を促進し、その結果、FXSに関連した異常な興奮と分化表現型が生じていた。FXS由来培養細胞およびFXSマウスモデルにおいて、GluA2を欠損するAMPA受容体を薬理学的に遮断すると、正常な神経機能が回復した。今後の研究から、学習およびその他のFXS関連行動が介入によって改善するか否か、また、転写後のレベルで生じているらしいGluA2の減少の原因が正確には何かが明らかになるだろうと思われる。それでもなお、これらの所見は、2017 Focus Issue(Ferrarelli参照)に取り上げられていた、FXSの根底にある機構に洞察を与えている本誌Archivesの多数の研究の上に、さらに加えられるものである。

FXS患者は多くの場合、種々の行動(最も多くは社会的手掛かりの処理や社会的相互作用)が障害される神経発達障害である自閉症スペクトラム障害(ASD)に特有の行動を示す。ASDの原因は不明であり、一部のタンパク質コード遺伝子の発現の変化が関係することが示されているが、その答えはどちらかといえば、エピジェネティックなコードにあると考えられる。学習と記憶に必要な分子機構は、エピジェネティクス(基礎にあるDNA配列の変化なしに遺伝子発現を変えるDNAまたはクロマチンの修飾)の制御下にあることが徐々に明らかになっている。Kobersteinらは、マウス海馬(記憶に重要な領域)のエピジェネティック・ランドスケープを解析するため、DEScanと呼ばれるハイスループットシーケンシング法を開発した。DEScanにより、マウス海馬のDNAに、学習によって調節される数多くの領域が特定された。マウスにおける運動学習は、タンパク質コード遺伝子外の領域、特に代替プロモーターの活性化の変化を誘発し、その多くはASD関連遺伝子の近傍に位置していた。これらの代替プロモーターの1つが、ASD関連遺伝子であるShank3の近傍にあった。SHANK3の欠損はシナプスの構造を変化させ、それにより神経機能と応答を傷害する(ArchivesのLiらの文献参照)。この方法は、自閉症およびその他の学習障害・神経発達障害に関与する、重要な遺伝子領域を特定するのに役立つであろう。学習障害の根治的な治療はできないが、これらの研究により、神経機能を回復し、患者とその介護者のために生活の質を改善する治療薬が開発されるかもしれない。

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2018年1月16日号

Editor's Choice

新たなつながり:学習障害におけるシグナル伝達

Research Article

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脆弱X症候群のヒト人工多能性幹細胞由来の神経前駆細胞におけるAMPA応答の機能的変化

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