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細菌が宿主細胞の代謝を操作する
Bacterial manipulation of host cell metabolism
Sci. Signal. 29 May 2018:
Vol. 11, Issue 532, eaau2601
DOI: 10.1126/scisignal.aau2601
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
I.-J. Kim, J. Lee, S. J. Oh, M.-S. Yoon, S.-S. Jang, R. L. Holland, M. L. Reno, M. N. Hamad, T. Maeda, H. J. Chung,J. Chen, S. R. Blanke, Helicobacter pylori infection modulates host cell metabolism through VacA-dependent inhibition of mTORC1. Cell Host Microbe 23, 583-593.e8 (2018).
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ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)外毒素は、アミノ酸飢餓を誘導し、mTORC1シグナル伝達を阻害することによって、宿主細胞の代謝を操作する。
要約
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染は、胃潰瘍およびがん発症の罹患率を増大させる。H. pylori外毒素の1つである空胞化サイトトキシンVacAは、細胞に侵入し、細胞内膜にチャネルを形成して、空胞新生、オートファジー、ミトコンドリア機能不全を引き起こす。Kimらは、H. pylori感染またはH. pyloriから分泌される因子への曝露によって、HEK293T細胞において、機能的vacAアレルを有する H. pylori株に依存する形で、機構的ラパマイシン標的タンパク質複合体1(mTORC1)シグナル伝達が阻害されることを見出した。精製VacAは、いくつかのヒト胃および十二指腸細胞株、初代培養マウス胃上皮細胞、マウス胃組織スライスにおいて、mTORC1シグナル伝達を阻害し、オートファジーを刺激した。栄養豊富条件下では、mTORC1がリソソーム膜に動員され、そこで活性化され、キナーゼUlk1を阻害することによってオートファジーを抑制する。しかし、栄養が制限されると、mTORC1がリソソームに動員されず、シグナル伝達活性が阻害され、Ulk1を介するオートファジー誘導が生じる。細胞をVacAで処理すると、細胞内アミノ酸が枯渇し、それによってmTORC1がリソソーム膜から解離し、Ulk1活性化が刺激された。mTORC1がリソソーム膜から解離しないようにした場合、またはVacAがミトコンドリアを標的にするためのN末端ドメインを欠損した場合には、VacAはmTORC1シグナル伝達を低下させなかった。VacA誘導性のミトコンドリア断片化を妨げると、VacA依存性のmTORC1シグナル伝達阻害とオートファジー刺激が阻止された。VacAが細胞内アミノ酸を減少させる正確な機構は発見されなかったが、これらの結果は、このH. pylori毒素が、効果的にアミノ酸飢餓を誘導することによって、宿主細胞の代謝状態を根本的に変化させることを示している。