発達:抑圧的な視力喪失

DEVELOPMENT: A Depressing Loss of Vision

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2003, Issue 194, pp. tw300, 5 August 2003.
[DOI: 10.1126/stke.2003.194.tw300]

要約 : 発育期間中の知覚経験は、脳機能に大きく影響する。たとえば、生後すぐに片目の視覚を一定期間遮蔽すると、その目が失明する理由は、脳の視覚野にあるニューロンが、刺激に反応する能力を失うためである(McAllisterとUsreyによるNews and Views参照)。この喪失は、単にニューロンの活性が減少した結果として生じるのではなく、遮蔽された網膜からの残存活性に依存する。しかし、その基盤的機構は、現在のところ不明である。Heynenらは、in vitroにおいて広く研究されてきたラットの視覚の単眼遮蔽(MD)効果をシナプス効率が頻度依存的に減少する長期抑圧(LTD)と比較し、短期間のMDがLTDと同様の機能的・生化学的変化を誘発することを見出した。LTD(in vivoにおける電気刺激によって産生される)およびMDは共に、視覚野の視覚刺激に対する電気的反応を減少させた。幼若ラットのMDは、LTDに見られる変化の特徴であるリン酸化状態および細胞表面におけるα-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソオキサゾール-4-プロピオン酸受容体(AMPAR)の発現を変化させた。MDは、GluR1サブユニットにおけるSer845の脱リン酸化を引き起こしたが、Ser831は変化させず、GluR2サブユニットにおけるSer880のリン酸化を増加させ、AMPARの細胞表面における発現を減少させた。LTDと同様に、AMPARにおけるリン酸化の変化は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体の活性化に依存した。さらに、MDを行ったラットの脳切片により、LTDの能力が減少したことが判明したが、それは、2つのプロセスが同じ飽和機構に依存した場合に予想されるとおりであった。著者らは、MDがLTDを誘発し、LTDがMDに続いて起きる視力喪失の一因であるという結論に達した。

A. J. Heynen, B.-J. Yoon, C.-H. Liu, H. J. Chung, R. L. Huganir, M. F. Bear, Molecular mechanism for loss of visual cortical responsiveness following brief monocular deprivation. Nat. Neurosci. 6, 854-862 (2003).
A. K. McAllister, W. M. Usrey, Depressed from deprivation? Look to the molecules ..., Nat. Neurosci. 6, 787-788 (2003).

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