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神経生物学:プリオンはメモリスイッチなのか?

NEUROBIOLOGY:
Is a Prion the Memory Switch?

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2004, Issue 214, pp. tw1, 6 January 2004.
[DOI: 10.1126/stke.2142004tw1]

要約 : プリオンは、同種のタンパク質がもう一つの立体構造状態へと変化することを促進するタンパク質である(一般的には、可溶性構造と不溶性の凝集構造がある)。さらに、そういったタンパク質の状態は後成的に遺伝する。ヒトにおいて、プリオンタンパク質は伝染性海綿状脳症を引き起こす。しかし酵母ではプリオンは病原性を持たず、タンパク質活性を後成的に制御する機構の代表例である。Siらは、シナプス可塑性の基礎にある機構などの神経生物学的問題の研究に用いられるモデル生物アメフラシ(Aplysia)が、翻訳制御タンパク質、細胞質性ポリA付加エレメント結合タンパク質(CPEB)のニューロン型を発現することに注目した。このタンパク質は、他のプリオンタンパク質と同様にグルタミン酸残基およびアスパラギン酸残基を豊富に含むN末端ドメインを有している。酵母を用いたアッセイでプリオン活性、すなわち異種発現したタンパク質やN末端ドメインが融合したタンパク質において遺伝性の構造変化を促進する能力を調べたところ、アメフラシのCPEBはまるでプリオンであるかのように振る舞った。驚いたことに、凝集すると不活化される酵母プリオンタンパク質とは対照的に、CPEBの凝集状態は、少なくとも酵母アッセイにおいて、活性型のタンパク質であると考えられた。セロトニンへの長期曝露またはセロトニンの短期パルスに対するアメフラシのCPEBの役割を解析したところ、CPEBタンパク質は転写後調節により増加することが示された。さらに、細胞体から単離した摘出神経突起において、セロトニンによってCPEBの合成が活性化された。細胞または神経突起をアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理しCPEBの発現を抑制したところ、初期の促進応答は失われなかったが、増強されたシナプス効果の持続に障害が生じた。薬理学的解析により、CPEB刺激にはホスホイノシチド3-キナーゼを要するが、プロテインキナーゼAやプロテインキナーゼCは必要でないことが示された。今後の課題は、CPEBがアメフラシにおいてプリオンとして振る舞うかどうか、タンパク質の構造変化が長期増強に伴うシナプス活性に応じて生じるかどうかを決定することである(Darnellを参照)。

K. Si, S. Lindquist, E. R. Kandel, A neuronal isoform of the Aplysia CPEB has prion-like properties. Cell 115, 879-891 (2003).
K. Si, M. Giustetto, A. Etkin, R. Hsu, A. M. Janisiewicz, M. C. Miniaci, J.-H. Kim, H. Zhu, E. R. Kandel, A neuronal isoform of CPEB regulates local protein synthesis and stabilizes synapse-specific long-term facilitation in Aplysia. Cell 115, 893-904 (2003).
R. B. Darnell, Memory, synaptic transmission, and ... prions? Cell 115, 767-768 (2003).

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