• ホーム
  • 癌生物学:無実の傍観者(バイスタンダー)を傷つける

癌生物学:無実の傍観者(バイスタンダー)を傷つける

CANCER BIOLOGY: Harming Innocent Bystanders

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2004, Issue 251, pp. tw333, 21 September 2004.
[DOI: 10.1126/stke.2512004tw333]

要約 : 一部の細胞集団に放射線を照射すると、放射線に直接曝されていない近傍の細胞にも損傷を引き起こすことが知られ、この現象はバイスタンダー効果と呼ばれている。バイスタンダー効果は、放射線への環境曝露や癌の治療に用いられる放射線により損傷を受ける可能性を考えるときに重要である。核が放射線に曝された細胞がバイスタンダー効果を誘導することは知られているが、Shaoらは最近、放射線を1個の細胞の細胞質に照射した場合にも、バイスタンダー効果が生じることを示している。このような標的照射を行うため、著者らは荷電粒子マイクロビーム照射法を用いて、ヒトグリア芽腫T98G培養細胞を一定数の3He2+イオンに曝露した。バイスタンダー効果は、細胞集団における小核(MN)の産生(染色体損傷の尺度)に基づいていた。MNの数は、集団に含まれる1個のT98G細胞を1個の3He2+イオンに曝露すると増加し、バイスタンダー効果は、T98GおよびAG0ヒト初代線維芽細胞との共存培養において生じた。バイスタンダー効果は、一酸化窒素(NO)捕捉剤を培地に添加すると阻害された。また、スフィンゴ糖脂質を豊富に含む膜マイクロドメイン(GEM)をGEMの構成成分であるコレステロールを除去する効果のあるフィリピン(filipin)で破壊してもバイスタンダー効果が阻害されたことから、膜からのシグナルの重要性が示唆される。化学分析法を用いNO産生を調べたところ、NO陽性の細胞数は、1個のT98G細胞の細胞質を1個の3He2+イオンに曝露すると増加し、このNOの増加は、細胞をフィリピンで予め処理すると阻害された。以上より、NOは、細胞質照射に応じてGEMで産生され、近傍の細胞に染色体損傷を引き起こすシグナルを仲介すると考えられる。

C. Shao, M. Folkard, B. D. Michael, K. M. Prise, Targeted cytosplasmic irradiation induces bystander responses. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101, 13495-13500 (2004). [Abstract] [Full Text]

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

バックナンバー一覧へ