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代謝 代謝の合図が転写コアクチベーターに集まる

METABOLISM:
Metabolic Cues Converge on Transcriptional Coactivator

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2005, Issue 307, pp. tw374, 25 October 2005.
[DOI: 10.1126/stke.3072005tw374]

要約 : 糖尿病の重篤な合併症が示すように、正常な血糖値の維持は生理学的に極めて重要な機能である。しかし、極めて注目されているにもかかわらず、こうした恒常性を達成する調節メカニズムはあまり理解されていない。Kooらは、TORC2(制御CREB活性トランスデューサー2)として知られる転写コアクチベーターに関する研究によって、新たな洞察を提供している。(CREBとは、細胞内シグナル伝達分子cAMP(アデノシン3’,5’-一リン酸)により活性化される転写因子である。)著者らの知見によれば、TORC2は肝臓において糖新生(他の代謝物からのグルコースの合成)で機能する酵素をコードする遺伝子の転写を制御する。動物を絶食させるかあるいは別の方法で血糖値を低下させた条件のもとでは、こうした遺伝子の発現は亢進する。こうした調節は、生物体全体のレベルでは、グルカゴンやインスリンのようなホルモンにより仲介される。TORC2の活性はリン酸化により制御され、このリン酸化によってTORC2が核に局在するかどうかが決まる。絶食中のマウスの肝臓において、TORC2は脱リン酸化されて核ヘと移行した。実際に、RNA干渉により肝細胞のTORC2を欠乏させたマウスでは、絶食によって血糖値が異常に低下した。この全身的なグルコースの調節は、細胞のエネルギー状態を監視するメカニズムにより増強される。この場合、アデノシン三リン酸の細胞濃度が低いと(低いエネルギー貯蔵量を意味する)プロテインキナーゼAMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)が活性化され、エネルギー集約的な糖新生プロセスを阻害する。この系がTORC2を介する糖新生の制御にも関与することを、Kooらは突き止めている。AMPKはin vitroでTORC2をリン酸化し、初代培養肝細胞においてAMPKを活性化させた刺激がTORC2のリン酸化を増加させ、核への移行を阻害した。このように、TORC2は全身と細胞のエネルギー状態を監視する調節シグナルの変換点に相当するようである。TORC2は代謝性疾患の治療的介入を行う上での有用なターゲットとなるかもしれないと著者らは述べている。

S.-H. Koo, L. Flechner, L. Qi, X. Zhang, R. A. Screaton, S. Jeffries, S. Hedrick, W. Xu, F. Boussouar, P. Brindle, H. Takemori, M. Montminy, The CREB coactivator TORC2 is a key regulator of fasting glucose metabolism. Nature 437, 1109-1111 (2005).

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