味覚 抑制を失わせる甘味

TASTE:
The Sweet Taste of Losing One's Inhibition

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2006, Issue 336, pp. tw168, 23 May 2006.
[DOI: 10.1126/stke.3362006tw168]

要約 : サッカリンナトリウム(サッカリンNa)は甘味料として使用されるが、高濃度だとむしろ苦く感じられる。連続して曝露された場合はなおさらである。苦味を口から洗い流すことで一種の味覚の「残像」が生じるので、甘い「水の味」と呼ばれるように水でも甘く感じられる。Galindo-Cuspineraらは、甘味物質と混合すると甘い水の味を引き起こすさまざまな化合物(lactisole、MgSO4、高濃度のサッカリンNa、アセサルフェームKなど)が、甘味を阻害することを突き止めた。甘い水の味を引き起こさないシクラミン酸Naなどの甘味料は、他の甘味物質の甘味を阻害しなかった。カルシウムイメージングを用いて、ヒトのヘテロメリック甘味受容体hTAS1R2-hTAS1R3をトランスフェクトしたヒト胚性腎細胞の応答を観察したところ、サッカリンNaまたはアセサルフェームKの濃度増加に対する応答は、ヒト味覚受容体によって感知される甘味の喪失と並行してピークに達し、その後減少することを著者らは突き止めた。同様に、単一細胞カルシウムイメージングにより、高濃度のサッカリンNaは他の甘味料に対する応答を阻害し、サッカリンNaおよびアセサルフェームKは、細胞から洗い流すといずれもオフ応答を示すことが明らかになった(すなわち、リガンドを除去するとこれらの受容体が活性化される。このことは、知覚的な甘い水の味と類似する)。著者らは、サッカリンNaやアセサルフェームKなどの物質は低い濃度では高親和性の活性化部位に結合し、より高い濃度では低親和性の部位に結合して受容体平衡を不活性な構造に傾かせるという甘味受容体の2状態アロステリックモデルの観点から、これらのデータを解釈した。このモデルにおいて、これらの物質は洗い流すことで低親和性の阻害部位から優先的に失われ、その結果甘味の反動的知覚をもたらす。

V. Galindo-Cuspinera, M. Winnig, B. Bufe, W. Meyerhof, P. A. S. Breslin, A TAS1R receptor-based explanation of sweet "water-taste." Nature 441, 354-357 (2006). [PubMed]

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