p16INK4aで若さを保つ

Aging Staying Young with p16INK4a

Editor's Choice

Sci. STKE, Vol. 2006, Issue 355, p. tw337, 3 October 2006
[DOI: 10.1126/stke.3552006tw337]

Elizabeth M. Adler

Science's STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 長寿の生物では、多くの組織の細胞が、増殖能を保持する幹細胞や前駆細胞の集団によって置換される。これらの細胞の増殖能は年齢とともに低下し、このことが組織修復能や再生能の低下と関連するとされている。3種類の異なる組織に着目した3つの研究によって、一部の細胞種で年齢とともに含有量が増加するサイクリン依存性キナーゼ阻害因子p16INK4aの、この増殖能と再生能の喪失における役割が検討された。
Janzenらは、p16INK4aのmRNA発現が高齢マウスの骨髄由来造血幹細胞(HSC)において上昇することを突き止めた。p16INK4aを欠損する高齢マウスは、野生型の高齢マウスよりも多くのHSCを持ち、p16INK4aを欠損する高齢マウス由来のHSCが骨髄移植を介して免疫系を再構築する能力は、野生型の高齢マウスのHSCよりも優れていた。HSC周期の調節とその機能の保存に関与すると考えられるNotchのエフェクターであるHes1の発現は、p16INK4aを欠損するマウス由来のHSCでは促進され、p16INK4aを過剰発現するマウス由来のHSCでは低下した。Molofskyらは、加齢マウスにおける脳室下帯(SVZ)の神経前駆細胞増殖と嗅球神経発生におけるp16INK4aの役割を調べた。彼らは、SVZのp16INK4aのmRNA発現が加齢にともなって上昇することを発見し、SVZの増殖、培養液中で多能性コロニーを形成できるSVZ細胞数、ならびに嗅球神経発生が加齢にともなって低下することを観察した。p16INK4aを欠損する高齢マウスでは、SVZ増殖と嗅球神経発生の低下が軽減され、コロニー形成細胞の減少が消失した(これらのことは、下流の前駆細胞ではなく幹細胞に対する影響を示唆する)。ところが、p16INK4aは歯状回や腸管神経系においては前駆細胞の機能や神経発生には影響を及ぼさないようであった。Krishnamurthyらは、p16INK4aのmRNA発現がマウス膵島細胞で加齢とともに上昇することを示した。p16INK4a遺伝子の追加コピーを持つトランスジェニックマウス(若齢マウスでは、野生型の高齢マウスに匹敵する程度のp16INK4aを発現する)は、島細胞の増殖の低下を示したのに対して、野生型マウスにみられる加齢にともなう増殖の低下は、p16INK4aを欠損するマウスにおいて大きく軽減された。膵島再生およびマウスがβ細胞に対する毒素であるストレプトゾトシン処理で生き残る能力は、加齢にともなって低下した。ストレプトゾトシン処理後の島細胞の増殖と生存は、いずれもp16INK4aを欠損する高齢マウスにおいて亢進した。
以上より、少なくとも一部の細胞では、p16INK4aが加齢にともなう前駆細胞増殖と再生能の喪失に関与するようである。BeausejourとCampisiは、この研究を再生とがん感受性における幹細胞増殖の役割との関連で論じ、p16INK4aは腫瘍抑制因子であり、この因子を欠損するマウスでは腫瘍生成が起こりやすいと述べている。

V. Janzen, R. Forkert, H. E. Fleming, Y. Saito, M. T. Waring, D. M. Dombkowski, T. Cheng, R. A. DePinho, N. E. Sharpless, D. T. Scadden, Stem-cell ageing modified by the cyclin-dependent kinase inhibitor p16INK4a. Nature 443, 421-426 (2006). [PubMed]
J. Krishnamurthy, M. R. Ramsey, K. L. Ligon, C. Torrice, A. Koh, S. Bonner-Weir, N. E. Sharpless, p16INK4a induces an age-dependent decline in islet regenerative potential. Nature 443, 453-457 (2006). [PubMed]
A. V. Molofsky, S. G. Slutsky , N. M. Joseph, S. He, R. Pardal, J. Krishnamurthy, N. E. Sharpless, S. J. Morrison, Increasing p16INK4a expression decreases forebrain progenitors and neurogenesis during ageing. Nature 443, 448-452 (2006). [PubMed]
C. M. Beausejour, J. Campisi, Balancing regeneration and cancer. Nature 443, 404-405 (2006). [PubMed]

E. M. Adler, Staying Young with p16INK4a. Sci. STKE 2006, tw337 (2006).

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