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神経科学、怖がりの雄と勇敢な雌

Neuroscience Males Afraid, Females Brave

Editor's Choice

Sci. STKE, 28 November 2006 Vol. 2006, Issue 363, p. tw400
[DOI: 10.1126/stke.3632006tw400]

Nancy R. Gough

Science's STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 記憶にはさまざまな種類がある。マウスにおいて、状況恐怖記憶形成と空間記憶形成における違いが示されているが、いずれの形式の記憶にもカルシウムシグナルとカルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ(CaMK)の活性化が関与するようである。マウスには、記憶形成に関与するとされるCaMKの2種類のアイソフォーム(CaMKIとCaMKIV)と、CaMKをリン酸化する2種類の上流キナーゼ(CaMキナーゼキナーゼ:CaMKKαとCaMKKβ)がある。CaMKKβは空間記憶形成に、CaMKIVは長期増強と恐怖条件付けに関与するとされている。BlaeserらとMizunoらの2つのグループは、CaMKKα機能を欠損するマウスを作製し、このマウスが正常な空間記憶、正常な運動活性、正常な知覚を示すことを突き止めたが、雄マウスは状況恐怖記憶の形成に欠陥があった。CaMKKα欠損マウスにおいて、シナプス伝達や海馬長期増強の形成には欠陥がなかった。Blaeserらは、野生型マウスと比べて、CaMKKα欠損雄マウスは恐怖条件付けに応答するCaMKIVと転写調節因子CREB(CaMKIVの基質)のリン酸化が低下することを示した。通常の状態におけるCREBのリン酸化は、変異マウスでは特定の脳領域において亢進したが、恐怖誘導性のリン酸化の亢進はみられなかった。Mizunoらは、CaMKKαを欠損する雄雌両方のマウスにおける記憶形成を調べ、雌は状況恐怖条件付けの欠陥がないことを示した(雌マウスは、状況恐怖条件付けを示す傾向が雄マウスに比べて低いことが知られている)。野生型マウスにおいて、状況恐怖条件付けは、雄のみでの脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加と雌におけるBDNFの減少を促進した(転写産物の含有量は、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応法により測定された)。CaMKKα欠損マウスにおいて、雄におけるBDNFの増加は損なわれたが、雌における減少は影響を受けなかった。BDNFをコードする遺伝子はCREBの標的であるが、CREBにより調節を受ける別の遺伝子である神経成長因子誘導遺伝子B(NGF-1B)をコードする遺伝子の発現は、雄雌両方において恐怖条件付けに応答して上昇し、CaMKKαの欠損の影響を受けなかった。以上より、特定のシグナル伝達カスケードが必要な特定の種類の記憶のほかに、別の性特異的な調節がある。

F. Blaeser, M. J. Sanders, N. Truong, S. Ko, L. J. Wu, D. F. Wozniak. M. S. Fanselow, M. Zhuo, T. A. Chatila, Long-term memory deficits in Pavlovian fear conditioning in Ca2+/calmodulin kinase kinase α-deficient mice. Mol. Cell. Biol. 26, 9105-9115 (2006). [Abstract] [Full Text]
K. Mizuno, L. Ris, A. Sanchez-Capelo, E. Godaux, K. P. Giese, Ca2+/calmodulin kinase kinase αis dispensable for brain development but is required for distinct memories in male, though not in female, mice. Mol. Cell. Biol. 26, 9094-9104 (2006). [Abstract] [Full Text]

N. R. Gough, Males Afraid, Females Brave. Sci. STKE 2006, tw400 (2006).

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