生理学：成体の器官成長

Sci. STKE, 17 April 2007 Vol. 2007, Issue 382, p. tw129
[DOI: 10.1126/stke.3822007tw129]

Nancy R. Gough

要約 ： 今週の2報の論文は、喪失または需要の増大に応答して成体の器官が成長できるメカニズムを探るものである。Otuらは、マイクロアレイ発現プロファイリングを行い、マウスにおける部分的肝切除と胚肝臓発生に伴う転写パターンを比較した。多変量データを簡略化する計算法である主成分分析によれば、再生肝と発生肝の転写プロファイルは大きく異なっていた。両方の状態に共通で、発現の上昇を示した遺伝子の多くは、細胞増殖に関与するものとして分類された。発生肝のプロファイルは、クロマチンリモデリングに関与する遺伝子の発現上昇を示し、これは胚が成熟するにつれて次第に減少した。各状態において調節される転写因子は、違いが顕著だった。Otuらの結果により、肝再生は、発生時の肝形成に関与する経路の反復を伴わないことが示唆される。

膵臓では、成体における代謝需要の高まりに応じてβ細胞の量の増加が起こり、この過程は2型糖尿病において欠損することが知られている。若年発症成人型糖尿病（MODY）の遺伝的基盤の解析により、複数の転写因子がこの種類の2型糖尿病に寄与することが解明された。Guptaらは、野生型マウスまたはHNF-4αを欠損するマウスから得られた膵島のマイクロアレイ解析を行うことにより、これらのMODY原因遺伝子のひとつであるオーファン核受容体肝細胞核因子-4α（HNF-4α）をコードする遺伝子により調節される転写プロファイルを探索した。4カ月齢のHNF-4α欠損マウスのβ細胞の量は変化しなかったが、転写プロファイリングにより、HNF-4αが細胞増殖に関与することが示唆された。HNF-4αが需要に応じてβ細胞の増殖に関与するのかどうかを調べるために、著者らは、マウスにおいて代謝需要を高めてβ細胞増殖を促進する自然のプロセスである妊娠に応じて、β細胞の量変化を測定した。HNF-4α変異妊娠マウスでは、β細胞の量と膵インスリン含有量が野生型マウスよりも低下しており、BrdU標識実験に基づいて膵島の細胞分裂が低下することが示された。HNF-4αを欠損する未交尾マウスと妊娠マウスは、いずれもグルコース耐性の障害を示したが、妊娠マウスへの影響はより大きかった。HNF-4α変異マウスにおいて発現が低下していた遺伝子のひとつは、グアニンヌクレオチド交換因子（GEF）と類似するST5をコードしていた。クロマチン免疫沈降実験とレポーター遺伝子発現により、ST5はHNF-4αに夜調節を受けることが確認された。RNAiを用いてST5をノックダウンしたところ、β細胞株MIN6において、基底状態、および上皮増殖因子（EGF）による刺激時の細胞外シグナル制御キナーゼ（ERK）のリン酸化が低下した。HNF-4α変異マウスの膵島において、GTP結合型のRasが減少し、基底状態およびEGFによる刺激時のERKのリン酸化も低下した。妊娠HNF-4αマウスにおいては、ERK活性化も損なわれていた。以上より、HNF-4αは、代謝需要の高まりに応じて、成体におけるβ細胞の量の増加を促進するうえで重要なようであり、これはRas GEFであるST5をコードする遺伝子の発現促進を介しているではないかと考えられる。