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がん:がん遺伝子を同定する

Identifying Oncogenes

Editor's Choice

Sci. STKE, 19 June 2007 Vol. 2007, Issue 391, p. tw211
[DOI: 10.1126/stke.3912007tw211]

Elizabeth M. Adler

Science's STKE, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 上皮がんの広範な核型異常と遺伝的変異の特性により、どの変異ががんの発生と維持に不可欠であるのかを特定することは難しい。Boehmらは、統合的なゲノム学的手法を用いて、発がん性Rasの下流にあるどのシグナル伝達経路が細胞の形質転換に寄与するのかを決定することのよって、潜在的ながん遺伝子を特定した。著者らは、MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)またはPI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)のシグナル伝達経路を活性化する単一の変異対立遺伝子または対をなす変異対立遺伝子の組合せを発現する16種類のヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞株を作製し、発がん性Rasの腫瘍表現型を再現できる能力を評価した。これらのうちで、MEK1(MAPKキナーゼ)恒常的活性型変異体とミリストイル化AKT1変異体(myr-AKT、PI3Kシグナル伝達を恒常的に活性化する)との組合わせによる表現型が、発がん性Rasの表現型と最も類似していた。その後、著者らは、活性化キナーゼのライブラリーをスクリーニングし、MEK1変異体と組み合わせて発がん性Ras様の表現型の誘導するmyr-AKTの代役が可能な4因子を特定した。これらのひとつであるIKBKEkBキナーゼ(IKKε)の阻害因子eをコードする)は、ヒト乳がん細胞と乳がん細胞株においてかなりの割合で増幅され、過剰発現していた。さらに、IKBKEに対するshRNAは、IKBKEが増幅している乳がん細胞株の増殖と生存を阻害した。恒常的活性型IKBKEを発現する細胞は、NF-κBの核内移行およびNF-κB標的遺伝子の発現の増加を示し、NF-κBシグナル伝達を阻害すると、IKBKEで形質転換したHEK細胞の倍加時間を増加し、コロニー形成が抑制された。さらに、乳がん細胞株と乳がん組織において、IKKεはNF-κB活性化と関連していた。以上より、著者らは、IKBKEはPI3Kシグナル伝達をNF-κB経路の活性化に関連づける可能性がある乳がんのがん遺伝子であるとの結論に達している。Agamiがこの研究について考察している。

J. S. Boehm, J. J. Zhao, J. Yao, S. Y. Kim, R. Firestein, I. F. Dunn, S. K. Sjostrom, L. A. Garraway, S. Weremowicz, A. L. Richardson, H. Greulich, C. J. Stewart, L. A. Mulvey, R. R. Shen, L. Ambrogio, T. Hirozane-Kishikawa, D. E. Hill, M. Vidal, M. Meyerson, J.
K. Grenier, G. Hinkle, D. E. Root, T. M. Roberts, E. S. Lander, K. Polyak, W. C. Hahn, Integrative genomic approaches identify IKBKE as a breast cancer oncogene. Cell 129, 1065-1079 (2007). [PubMed]
R. Agami, All roads lead to IKKε. Cell 129, 1043-1045 (2007). [PubMed]

E. M. Adler, Identifying Oncogenes. Sci. STKE 2007, tw211 (2007).

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