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植物生物学
植物の主要なエネルギー制御キナーゼ

Plant Biology Master Energy-Regulator Kinases in Plants

Editor's Choice

Sci. STKE, 28 August 2007 Vol. 2007, Issue 401, p. tw306
[DOI: 10.1126/stke.4012007tw306]

L. Bryan Ray

Science, Science’s STKE, AAAS, Washington DC, 20005

要約 : 植物は、環境条件が変化したり、ストレスの多い状況に直面したりすると、代謝の劇的な変化を受ける。最も明らかな点は、光合成が活発な日中に機能する同化プロセスは、夜間または糖を利用できない場合や除草剤や過量の水への曝露などのストレス下において、異化プロセスに変化することである。Baena-Gonzalezらは、このように多様な刺激に対する共通の細胞転写応答を統合するうえで中心的役割を担う、一対のプロテインキナーゼを同定している。公開データベースを解析することにより、著者らは、暗期に曝露した植物細胞において発現が増大するが、光または糖に曝露すると発現が低下する暗期誘導性(DIN)遺伝子を同定した。DIN遺伝子のひとつを用いてデザインしたレポーター遺伝子の発現を測定した実験により、プロテインキナーゼ阻害剤に対する応答の感受性が明らかになった。著者らは、代謝を制御する酵母および哺乳類のキナーゼを用いた研究からヒントを得て、酵母タンパク質Snf1に類似するSnf1関連キナーゼ遺伝子ファミリーのメンバーに着目した。このようなタンパク質のうち、KIN10とKIN11の2種類のタンパク質は、シロイヌナズナ(Arabidopsis)の葉において発現させたところ、DINレポーターの発現を活性化した。制御エレメントへの系統的な変異導入により、ストレスまたはKIN10/KIN11に対するDIN遺伝子の応答を制御するGボックス結合因子の役割が示唆された。著者らは、全ゲノムGeneChipを用いてKIN10の発現に対する全体的な転写応答を探索し、転写効率が変化した1000個以上の遺伝子を同定した。公開されている遺伝子発現パターンと比較したところ、これらの遺伝子の一部は、糖またはエネルギーを欠乏させた植物において調節される遺伝子と強く相関することが示された。糖で処理した植物の発現プロフィールとの間には、負の相関が認められた。また、KIN10によって誘導される応答と高い相関を示す遺伝子発現応答が、低酸素によるストレスを受けたプロトプラストにおいても検出された。KIN10は、主要異化経路において機能する遺伝子を活性化(糖は抑制)したのに対して、エネルギー消費と同化プロセスを促進する遺伝子はKIN10に応答して抑制された。以上のことから、著者らは、Kin10とKin11は一次代謝と二次代謝やタンパク質合成の全体的な調節因子であると考えられるのではないかと提案している。その後、著者らは、全組織でKIN10を過剰発現させたり、RNAiによりKIN10とKIN11タンパク質を欠乏させたりしたシロイヌナズナ(Arabidopsis)植物を作製した。KIN10の発現によって、わずかな光が存在すれば、糖を含まない培地で培養した植物の生存率が増大した。KIN10の過剰発現は発育を遅らせ(動物におけるカロリー制限を暗示する)、老化の開始を遅らせた。KIN10とKIN11を欠乏させると、通常は暗期またはストレス条件への移行と関連する転写変化が遮断され、キナーゼは生育と開花の制御において別の役割を担うと考えられた。KIN10とKIN11は、哺乳類のAMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)と同様に、エネルギーの恒常性を制御するシグナル伝達の中心的な調節因子であるかもしれないと著者らは述べている。

E. Baena-Gonzalez, F. Rolland, J. M. Thevelein, J. Sheen, A central integrator of transcription networks in plant stress and energy signaling. Nature 448, 938-942 (2007). [PubMed]

L. B. Ray, Master Energy-Regulator Kinases in Plants. Sci. STKE 2007, tw306 (2007).

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