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微生物学 
細菌のTIRドメイン

Microbiology
Bacterial TIR Domains

Editor's Choice

Sci. Signal., 15 April 2008
Vol. 1, Issue 15, p. ec129
[DOI: 10.1126/stke.115ec129]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 細菌は、宿主中で生き残るために、免疫防御の第一線である自然免疫応答をくぐり抜ける必要がある。Toll様受容体(TLR)による外来分子に応答するシグナル伝達は、自然免疫応答の重要な部分であるので、病原体はこの経路を混乱させるための機構を発達させた(O’Neill参照)。Cirlらは、大腸菌(Escherichia coli)CFT073株およびマルタ熱菌(Brucella melitensis)を含む数種類のヒト細菌性病原体において、Toll/インターロイキン-1受容体(TIR)ドメインを含むタンパク質を同定した。大腸菌CFT073株は尿路感染を引き起こし、マルタ熱菌は、インフルエンザに伴う症状と似た症状のある疾患であるブルセラ症を引き起こす。著者らは、これらのタンパク質をTIRドメイン含有タンパク質(TIR domain-containing protein)からTcpと名付けた。大腸菌タンパク質はTcpC、マルタ菌タンパク質はTcpBと名付けられた。CFT073のTcpC欠損変異体に感染した細胞では、野生型CFT073に感染した細胞と比較して、炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)とインターロイキン-6(IL-6)の産生の亢進および細菌負荷の増加が認められた。レポータープラスミドと共にTLRシグナル伝達の構成要素とTcpCまたはTcpBタンパク質をコードするプラスミドをトランスフェクトした細胞では、TLRを介するシグナル伝達のうちアダプターであるMyD88と共役するもの(TLR4およびTLR2を介するもの)が低下したが、他のアダプターと共役するものは低下しなかった。MyD88欠損細胞のCFT073感染では、TNF分泌の低下は認められなかった。このように、TcpCとTcpBはMyD88依存性のTLR経路を選択的に阻害すると考えられる。プルダウンアッセイでは、TcpCのTIRドメインあるいは完全長のTcpBがMyD88に結合した。TcpCは細菌から分泌され、トランスウェルを用いた系においてマクロファージを細菌から分離した場合でさえも、骨髄由来マクロファージの内部で検出可能であった。TcpCのTIRドメインの精製ペプチド取込みは、宿主細胞の細胞膜からコレステロールを除去すると阻害されたことから、取込みには脂質ラフトが重要である可能性が示唆される。最後に、マウスを野生型CFT073あるいはTcpC欠損株に感染させ、疾患におけるTcpCの重要性について検討したところ、野生型株に感染したマウスのほうがより重篤な症状を示した。ヒト尿路摘出では、重度の疾患(急性腎盂腎炎)とTcpC陽性株の存在頻度の高さとのあいだに関連性が認められたのに対して、重症度が低い(膀胱炎)患者ないし無症候性感染の患者に由来する検体からは、TcpC陽性株はあまり検出されなかった。このように、一部のウイルス性病原体と同様に、細菌もTLRシグナル伝達を標的にして病原性を高めると考えられる。

C. Cirl, A. Wieser, M. Yadav, S. Duerr, S. Schubert, H. Fischer, D. Stappert, N. Wantia, N. Rodriguez, H. Wagner, C. Svanborg, T. Miethke, Subversion of Toll-like receptor signaling by a unique family of bacterial Toll/interleukin-1 receptor domain-containing proteins. Nat. Med. 14, 399-406 (2008). [PubMed]
L. A. J. O’Neill, Bacteria fight back against Toll-like receptors. Nat. Med. 14, 370-372 (2008). [PubMed]

N. R. Gough, Bacterial TIR Domains. Sci. Signal. 1, ec129 (2008).

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