生理学 
腸から骨へ

Physiology
From Gut to Bone

Editor's Choice

Sci. Signal., 9 December 2008
Vol. 1, Issue 49, p. ec418
[DOI: 10.1126/scisignal.149ec418]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 骨量に影響を及ぼす疾患(女性では閉経に伴う骨粗鬆症など)は、遺伝的変異を介して、あるいは加齢に際して起こる自然な変化の結果として生じることので、骨密度を調節するシグナルは臨床的に重要である。Yadavらは、十二指腸のクロム親和性細胞で合成されたセロトニンが骨芽細胞にシグナルを送り、骨形成を抑制し、それによって骨密度を低下させるという実験的証拠を示した。低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質5(LRP5)をコードする遺伝子に変異が生じると、ヒトの骨の表現型が変化し、機能喪失変異の場合には「骨粗鬆症性・偽神経膠腫症候群(OPPG)」(低骨量と失明を特徴とする)と呼ばれる疾患を引き起こし、機能獲得変異の場合には骨量増加を特徴とする疾患を引き起こす。LRP5はWnt経路の共受容体として最も良く知られているが、様々な実験的証拠から、β-カテニンを介するWntシグナル伝達はLRP5による骨の調節に関与していないことが示唆されている。今回Yadavらは、Lrp5ノックアウトマウス(Lrp5-/- )と骨芽細胞中でβ-カテニンを欠失しているマウス[ β-Cat(ex3)osb-/- ]が、両方とも骨量低下を示すにも関わらず、その遺伝子発現の特徴は異なることに気づいた。Lrp5-/- マウスでは、末梢におけるセロトニン合成の律速酵素「トリプトファンヒドロキシラーゼ1(Tph1)」をコードする遺伝子の発現が、他の遺伝子よりも亢進していたのに対して、β-Cat(ex3)osb-/- マウスではTph1 の発現に変化はなかった。3例のOPPG患者では、血中セロトニン濃度は上昇し、循環セロトニンの増だいを認められた。Lrp5-/- マウスにおいて、トリプトファン摂取の低下もしくはその合成の薬理学的阻害によって循環セロトニン量を減少させると、骨の特性が正常化した。十二指腸のLrp5活性とセロトニン産生が骨の表現型の変化の原因であることを確認するために、著者らは腸または骨芽細胞のLrp5あるいはTph1 のみをノックアウトしたマウスを作製した。腸でノックアウトしたマウスのみが循環セロトニン量の変化を示した。腸特異的Lrp5ノックアウトマウスの場合には循環セロトニンの増大と骨量の減少が、またTph1ノックアウトマウスの場合には循環セロトニンの減少と骨量の増大が生じた。セロトニンは、骨芽細胞上のHtr1b型セロトニン受容体を介して作用し、Htr1bのヘテロ接合体マウスは骨量の増大を示した。著者らは、転写因子ATF4あるいはCREBのいずれかの対立遺伝子の一つを欠損しているマウスを作製し、Lrp5-/- マウスと交配させることによって、セロトニンがCREBを介して機能し、ATF4を介するものではないことを明らかにした。すなわち、腸から放出されるセロトニン(この生成はLRP5により抑制される)は骨芽細胞にシグナルを送り、骨形成を阻害するのである。したがって、脳セロトニンとは完全に区別できる循環セロトニンを標的とすることは、骨密度関連性疾患にとって魅力的な方法であると思われる(Longによるcommentaryを参照のこと)。

V. K. Yadav. J.-H. Ryu, N. Suda, K. F. Tanaka, J. A. Gingrich, G. Schutz, F. H. Glorieux, C. Y. Chiang, J. D. Zajac, K. L. Insogna, J. J. Mann, R. Hen, P. Ducy, G. Karsenty, Lrp5 controls bone formation by inhibiting serotonin synthesis in the duodenum. Cell 135, 825-837 (2008). [PubMed]
F. Long, When the gut talks to bone. Cell 135, 795-796 (2008). [PubMed]

N. R. Gough, From Gut to Bone. Sci. Signal. 1, ec418 (2008).

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

バックナンバー一覧へ