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微生物学
イオン性シグナルがコミュニティー形成を促す

Microbiology
Ionic Signals to Community Formation

Editor's Choice

Sci. Signal., 13 January 2009
Vol. 2, Issue 53, p. ec10
[DOI: 10.1126/scisignal.253ec10]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 細菌は単細胞生物であるが、ある条件下では多細胞性のコミュニティーを形成する。そのようなコミュニティーのひとつであるバイオフィルムは、細菌同士が互いの存在を感知できるほどに密集している場合に表面に形成される。枯草菌(Bacillus subtilis)は、最少培地で培養するとバイオフィルムを形成するが、富栄養培地では形成しない。Lópezらは、ナイスタチン(nystatin)、アムホテリシン(amphotericin)、グラミシジン(gramicidin)、サーファクチン(surfactin)など構造的には無関係だが天然に産生される細菌産物をいくつか取り上げ、富栄養培地において枯草菌のバイオフィルム形成を誘発する能力を調べた。誘発能を有する分子に共通する性質は、陽イオン漏出の誘発能であった。サーファクチンは野生型枯草菌の天然産物であり、この分子の産生能をもたない細菌はバイオフィルムを形成しない。サーファクチンは界面活性剤特性を有するが、サーファクチン産生能の欠損した枯草菌株において、界面活性剤特性のないナイスタチンがバイオフィルム形成を誘発したことから、界面活性剤特性はバイオフィルムの誘発には必要ないものと思われる。サーファクチンのバイオフィルム形成誘発能は、枯草菌を高濃度カリウム条件下で培養すると阻害されたが、ナトリウムまたはリチウムでは阻害されなかった。これは、陽イオン漏出、なかでもカリウム漏出をバイオフィルム形成の誘発シグナルとすることと一致する。レポーターアッセイによって、バイオフィルム形成に必要とされる細胞外マトリックス成分の産生に関わるオペロンの発現がサーファクチンおよびナイスタチンによって促進されることが示された。枯草菌のヒスチジンセンサーキナーゼKinC欠損株では、サーファクチンに応答してバイオフィルムを形成することができなかった。KinC、転写因子でありKinCのキナーゼ標的と想定されるSpo0A、およびSpo0Aのレポーター遺伝子をリステリア菌(Listeria monocytogenes)に導入すると、サーファクチンに応答してレポーター遺伝子の発現が誘導されたが、高濃度カリウム条件下で培養した場合にはこの誘導は阻害された。このように、細菌は特別なリガンド・受容体相互作用を必要とせず、その代わりに細胞状態の変化(カリウム濃度の低下)を引き金としてキナーゼを活性化し、遺伝子発現の変化を開始させるという、互いの存在を感知するための機構を進化させてきたようだ。

D. López, M. A. Fischbach, F. Chu, R. Losick, R. Kolter, Structurally diverse natural products that cause potassium leakage trigger multicellularity in Bacillus subtilis. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106, 280-285 (2009). [Abstract] [Full Text]

N. R. Gough, Ionic Signals to Community Formation. Sci. Signal. 2, ec10 (2009).

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