細胞周期 
私を待って

Cell Cycle
Wait for Me

Editor's Choice

Sci. Signal., 27 January 2009
Vol. 2, Issue 55, p. ec27
[DOI: 10.1126/scisignal.255ec27]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 真核細胞は、原核生物が細胞内共生して相互作用することにより誕生したと考えられるので、真核細胞には核ゲノムのみならず、ミトコンドリアや、植物の場合には色素体中にもオルガネラゲノムが含まれる。植物では、オルガネラDNAの複製が核DNAの複製や細胞分裂よりも前に起こることからもわかるように、核DNAの複製とオルガネラDNAの複製は協調している。色素体とミトコンドリアの両方が関わる過程を介して合成されるテトラピロール分子は、これらのオルガネラと核との間のシグナル伝達を仲介して、これらのオルガネラへ輸送されるタンパク質の遺伝子の核における発現を調節することが報告されている。小林らは、テトラピノールが、オルガネラDNA複製の完了をG1サイクリン依存性キナーゼのCDKAの活性化や核DNAの複製と共役させることにも関与することを発見した。著者らは、1つの細胞にミトコンドリアと色素体とを1つずつ含み、光により同調できる細胞周期をもつ単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolaeにおけるオルガネラDNAと核DNAの複製を追跡することによって、オルガネラDNAの複製が核DNAの複製に先行すること、また前者が後者に必要なことを明らかにした。CDKA特異的阻害剤または核DNAポリメラーゼ阻害剤で細胞を処理すると、核DNAの複製は阻害されたが、オルガネラDNAの複製は阻害されなかった。オルガネラのDNAジャイレースを阻害すると、オルガネラDNA複製と核DNA複製の両方が阻害された。テトラピロール中間体を添加するとCDKAが活性化され、オルガネラDNAの複製が起こらなくても核DNAの複製が可能であった。オルガネラDNAの複製がまさに完了しようとしている時点でテトラピロール合成を阻害すると、核DNAの複製が妨げられた。タバコ由来の培養細胞BY-2でも、同様の過程が観察された。すなわち、核DNAの複製にはオルガネラDNAの複製が必要であり、このような必要条件は、テトラピロール中間体の添加によって回避することができた。著者らは、DNA複製後にオルガネラから放出されるテトラピロールが未知の細胞質センサーと相互作用し、その後CDKAが活性化され、細胞のG1期からS期へ移行を可能にすると述べている。

Y. Kobayashi, Y. Kanesaki, A. Tanaka, H. Kuroiwa, T. Kuroiwa, K. Tanaka, Tetrapyrrole signal as a cell-cycle coordinator from organelle to nuclear DNA replication in plant cells. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106, 803-807 (2009). [Abstract] [Full Text]

N. R. Gough, Wait for Me. Sci. Signal. 2, ec27 (2009).

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