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神経科学
痴呆のオリゴマー

Neuroscience
Oligomers of Dementia

Editor's Choice

Sci. Signal., 10 March 2009
Vol. 2, Issue 61, p. ec88
[DOI: 10.1126/scisignal.261ec88]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : ムスカリン性アセチルコリン受容体などのGαq/11結合型受容体を通したシグナル伝達の障害は、痴呆およびアルツハイマー病(AD)と関連している。AbdAllaらは、1対の論文において、β-アミロイド(Aβ)により誘導されるアンジオテンシンII受容体(AT2R)オリゴマーの中にGαq/11が隔離されることがADの進行に寄与する可能性があると報告している。著者は、AD患者および対照患者に由来する前頭前皮質の検体を比較することにより、カルバコール(ムスカリン受容体作動薬)またはGタンパク質の直接的な活性化薬に応答したシグナル伝達(ホスホイノシチド加水分解)が減少しているのに加えて、Gαq/11の活性化も低下していることを明らかにした。AD患者の検体のウエスタンブロットからも、Gαq/11と会合するオリゴマーのAT2Rの存在が示されたのに対し、対照の脳検体にはGαq/11と会合しないモノマーのAT2Rしか存在しなかった。マウスの脳内にAβを注入すると、AT2Rオリゴマーの用量依存性の増加がもたらされた。抗酸化薬の投与によりオリゴマーの形成が阻害され、トランスグルタミナーゼの注入によりGαq/11に会合するオリゴマーが誘導されたことから、酸化に続くトランスグルタミネーションがオリゴマー形成の基礎をなすことが示唆された。APPSwマウス(ADのマウスモデル)に対し、疾患を進行させるストレスを与えることにより、ストレスを与えなかったAPPSwマウスと比較して、ストレスを与えたマウスの脳では、不溶性Aβの産生、Gαq/11と会合するAT2Rのオリゴマー形成、神経変性が増加し、学習障害が亢進していることが示された。カルバコールに応答したシグナル伝達もストレスを与えたAPPSwマウスで低下していた。RNAiを海馬内に注入することでAT2Rをノックダウンすると、ストレスを与えたAPPSwマウスにおいて、不溶性Aβの形成およびタウリン酸化が減少し、ムスカリン受容体を通したシグナル伝達が維持された。2本目の論文では、AbdAllaらは、ヒト胎児腎(HEK)由来293細胞にAT2Rとその様々な変異体を発現させ、膜貫通へリックスIIIおよびIVの間の細胞質ループ内のチロシン残基はダイマーの酸化による誘導に必要であり、オリゴマーを形成するトランスグルタミネーションにはC末端ドメインが必要であることを示した。彼らはまた、異種発現系を用い、AT2RオリゴマーがGαq/11を隔離し、ムスカリン受容体シグナル伝達を阻害することを確認した。C末端を切断した変異AT2Rを発現させると、異種発現系において、受容体のオリゴマー形成が阻害され、ムスカリン受容体の反応性が回復した。このC末端を切断した変異体を、ストレスを与えたAPPSwマウスの海馬にウイルスを用いて導入すると、AT2Rオリゴマー形成の低下、神経変性の減少、学習の改善、Gαq/11活性化の回復が認められたことから、ADの進行におけるAT2Rオリゴマー形成のさらなる裏付けが得られた。

S. AbdAlla, H. Lother, A. el Missiry, A. Langer, P. Sergeev, Y. el Faramawy, U. Quitterer, Angiotensin II AT2 receptor oligomers mediate G-protein dysfunction in an animal model of Alzheimer disease. J. Biol. Chem. 284, 6554-6565 (2009). [Abstract] [Full Text]
S. AbdAlla, H. Lother, A. el Missiry, P. Sergeev, A. Langer, Y. el Faramawy, U. Quitterer, Dominant negative AT2 receptor oligomers induce G-protein arrest and symptoms of neurodegeneration. J. Biol. Chem. 284, 6566-6574 (2009). [Abstract] [Full Text]

N. R. Gough, Oligomers of Dementia. Sci. Signal. 2, ec88 (2009).

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