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Cancer Therapy
Back to the Dead

Editor's Choice

Sci. Signal., 17 March 2009
Vol. 2, Issue 62, p. ec94
[DOI: 10.1126/scisignal.262ec94]

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : タモキシフェンは有効な乳がん治療薬である。これはエストロゲン受容体α(ERα)に結合し、ERα標的遺伝子の発現を低下させ、細胞増殖を抑制し、アポトーシスを誘導する。しかし、多くの乳がんはERα陰性でタモキシフェンに応答しないことから、これに代わる治療の模索が促されてきた。Fordらは、乳がん細胞におけるERαの欠損が、分泌性糖タンパク質Wnt-5aの欠乏と相関していることに着目し、ERα陰性乳がん細胞と細胞株を組換え型Wnt-5aで処理したところ、ERαのmRNAとタンパク質の発現が回復した。Wnt-5aとシグナル伝達特性が似ている、Foxy-5と呼ばれるWnt-5a由来のヘキサペプチドでも同様の結果が得られた。乳がん細胞におけるERαの欠損は、ERαをコードする遺伝子プロモーターの高メチル化状態と相関している。Wnt-5aまたはFoxy-5で処理したERα陰性細胞は、未処理のERα陰性細胞に比べて、ERαプロモーターのメチル化が低下していた。Wnt-5aまたはFoxy-5で処理されたがん細胞株において、ERαリガンドであるエストラジオールはERαのリン酸化を誘導した。ERα標的分子のレポーターアッセイおよびウェスタンブロット解析から、回復したERαは機能を有することが明らかになった。ERαの回復によって、これらの細胞はタモキシフェン誘導性の細胞死に対する感受性になったが、Wnt-5aやFoxy-5の非存在下ではこれらの細胞はタモキシフェンに応答しなかった。最後に、あらかじめ乳がん細胞株を注射したマウスにFoxy-5を投与すると乳がん細胞中でERαのmRNAが誘導されたが、対照ペプチドの投与によっては誘導されなかった。著者らは、ERα陰性の乳がん治療において、Foxy-5は細胞をタモキシフェン感受性にすることによって治療効果を示す可能性があることを示唆している。

C. E. Ford, E. J. Ekström, T. Andersson, Wnt-5a signaling restores tamoxifen sensitivity in estrogen receptor-negative breast cancer cells. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106, 3919-3924 (2009). [Abstract] [Full Text]

J. F. Foley, Back to the Dead. Sci. Signal. 2, ec94 (2009).

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