構造生物学 
筋肉より脳

Structural Biology
Brains Over Brawn

Editor's Choice

Sci. Signal., 31 March 2009
Vol. 2, Issue 64, p. ec110
[DOI: 10.1126/scisignal.264ec110]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 芳香族アミノ酸を含むことから「アロマティック・ボックス」と呼ばれる部位で、リガンドはニコチン性アセチルコリン受容体(AChR)に結合する。ニコチンは、ニコチン中毒に関与すると考えられるAChRの脳内サブタイプ(α4β2)に対して、筋肉サブタイプ(α1β1)に対するよりもはるかに高い親和性で結合する。ニコチンは脳内AChRのアロマティック・ボックスに含まれるTrp149(TrpBと呼ばれる)とカチオン-π相互作用を形成するが、筋肉AChRのTrpBとは相互作用を形成しない。しかし、アロマティック・ボックスの配列は両サブタイプで同一なので、この相違の理由はまだわかっていない。(カチオン-π相互作用は、カチオンと、トリプトファン残基の側鎖のような、電子密度が高いπ系との非共有結合である。)Xiuらは、アフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞に発現させたα1β1およびα4β2 AChRにおいてTrpB残基の位置をフッ素化アミノ酸アナログ(カチオン-π相互作用を弱めると予想される)で置換した。そして、このような非天然アミノ酸が、Achおよびニコチンの脳内α4β2サブタイプとの結合には影響を及ぼすが、筋肉のα1β1サブタイプとの結合には影響を及ぼさないことを観察し、前者には強力なカチオン-π相互作用が存在するが、後者には存在しないことを確認した。脳の受容体ではTrpBから4残基目の位置にLysが含まれるのに対して、筋肉の受容体ではこの位置にGlyが含まれる。この変異(Gly153→Lys153)を有する筋肉の受容体は、ニコチンとの強力なカチオン-π相互作用を示した。TrpBのカルボニル骨格がニコチンと水素結合を形成することを示した先行研究に基づいて、著者らは、脳のα4β2受容体のLys153残基が、ニコチンがTrpBとより近接して強力に結合できるようにアロマティック・ボックスの形状を変化させるのではないかと提案している。実際に、α4β2サブタイプよりもニコチンに対する親和性が低いα7ニコチン受容体は、153位にGlyを有する。この知見は、特定のニコチン受容体サブタイプを標的とする薬物のデザインに役立つ可能性がある。

X. Xiu, N. L. Puskar, J. A. P. Shanata, H. A. Lester, D. A. Dougherty, Nicotine binding to brain receptors requires a strong cation-π interaction. Nature 458, 534-537 (2009). [PubMed]

W. Wong, Brains Over Brawn. Sci. Signal. 2, ec110 (2009).

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

バックナンバー一覧へ