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幹細胞 
胚はなぜ心拍動する心臓を必要とするのか

Stem Cells
Why Embryos Need a Beating Heart

Editor's Choice

Sci. Signal., 26 May 2009
Vol. 2, Issue 72, p. ec171
[DOI: 10.1126/scisignal.272ec171]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 胚の拍動する心臓は、最初に検出できる臓器の一つであり、胚が栄養物の輸送や老廃物の除去のために機能的な循環系を必要とするよりもはるかに前に形成される。Northらは、拍動する心臓および発達過程の循環系を通る血流が、胚形成期および成体期のいずれにおいても全種類の血液細胞を産生する造血幹細胞(HSC)の発達に必要であるという証拠を示している。ゼブラフィッシュ胚においてHSCの存在量を変化させる化合物を化学的にスクリーニングしたところ、著者らは、血流を変化させる化合物とHSC数の間に関連性を認めた。すなわち、血管の拡張を引き起こして血流を増大させる化合物はHSC数を増加させ、血管の収縮を引き起こして血流を減少させる化合物はHSC数を減少させた。さらに、silent heartsih)遺伝子に変異をもつゼブラフィッシュは心拍動がなく、動脈の特異化も障害されており、HSCが著しく減少していた。一酸化窒素(NO)の産生を引起す化学物質は、HSC形成を促進しうる拍動の開始前に投与することができる唯一の化合物であった。NOを阻害する化学物質は、拍動開始前に投与した場合にでもHSC形成を低下させ、血流を刺激する化合物に応答するHSC形成の亢進も阻害した。ゼブラフィッシュ胚を、NO産生化合物であるSNAPに曝露すると、sih変異体におけるHSC形成が救済されたことから、血流はNOを通して作用し、HSC形成を刺激することが示唆された。ゼブラフィッシュは2つの一酸化窒素合成酵素(NOS)遺伝子をもつ。すなわち、nos1(哺乳動物のニューロン性NOSおよび内皮細胞NOSに関連)とnos2(誘導性NOS)である。nos1のノックダウンはHSC形成を低下させたが、nos2のノックダウンは低下させなかった。さらに、血流およびHSC形成を刺激する化合物はnos1の発現を亢進させ、sih変異体ではnos1の発現が低下した。マウスにおける実験から、NOとHSC形成の関連性が保存されていることが示唆された。HSCおよびNOに関するこれらのデータは、発達過程の循環系におけるNOの機能を広げるものであり、これは、血管の形成および緊張性にとっても重要である。

T. E. North, W. Goessling, M. Peeters, P. Li, C. Ceol, A. M. Lord, G. J. Weber, J. Harris, C. C. Cutting, P. Huang, E. Dzierzak, L. I. Zon, Hematopoietic stem cell development is dependent on blood flow. Cell 137, 736-748 (2009). [PubMed]

N. R. Gough, Why Embryos Need a Beating Heart. Sci. Signal. 2, ec171 (2009).

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