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代謝 
ストレスと糖の急増

Metabolism
Stress and Sugar Rushes

Editor's Choice

Sci. Signal., 4 August 2009
Vol. 2, Issue 82, p. ec257
[DOI: 10.1126/scisignal.282ec257]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : CRTC2[CREB(cAMP応答配列結合タンパク質)調節性転写共役因子2、TORC2としても知られる]は転写因子CREBと結合し、肝臓の糖新生を調節する。Wangらは、初代培養肝細胞をタプシガルギンthapsigarginまたはツニカマイシンtunicamycinで処理して小胞体ストレスを誘導すると、脱リン酸化と核移行で評価されるCRTC2の活性化が促進されることを明らかにした。ところが、これらの処理はCREB-CRTC2活性を検出するルシフェラーゼ・レポーター(CRE-luc)を阻害した。プロテオミクスによるスクリーニングによって、小胞体ストレスの際に小胞体から核内へと移行する転写因子ATF6α(活性化転写因子6α)がCRTC2の結合相手として同定された。タプシガルギンまたはツニカマイシンで処理された肝細胞では、CRTC2とATF6αは、小胞体ストレスにより誘導される転写因子をコードする遺伝子Xbp1X-box結合タンパク質1)のプロモーター上に検出された。さらに、マウスにツニカマイシンを注射すると、XBP1の活性を検出するルシフェラーゼ・レポーター(XBP1-luc)の肝臓での活性と、Xbp1遺伝子を含む小胞体ストレス誘導性遺伝子の転写が亢進した。このような作用は、CRTC2の過剰発現によって促進され、CRTC2に対するRNA干渉によって抑制された。ATF6αとCREBのCRTC2上での結合部位がオーバーラップしていたことから、著者らは、CRTC2に関してATF6αがCREBと競合するかどうかについて調べた。恒常的に核内に局在化するATF6α変異体(ATF6-N)を肝細胞で過剰発現させると、CRTC2とCREBの結合、グルコース6-ホスファターゼ(CREB標的遺伝子)のプロモーターへのCRTC2のリクルート、および糖新生(グルコース産生量で測定される)が低下した。肥満状態で起こる長期間の小胞体ストレスの際には、ATF6αが分解される。この現象は、小胞体ストレス応答を損ない、糖新生を促進すると予想される。実際に、遺伝子操作により作製された肥満マウス(db/db)も、高脂肪食により誘導された肥満マウスも、痩せたマウスに比べてXBP1-lucのレポーター活性が低く、CRE-lucのレポーター活性が高く、血糖値が高かった。このような差は、どちらのタイプの肥満マウスでも、ATF6-Nの過剰発現によって緩和された。このように、CRTC2は小胞体ストレス応答と糖新生を切り替えるスイッチとして作用し、肥満状態ではこの両者のバランスが崩れるものと考えられる。

Y. Wang, L. Vera, W. H. Fischer, M. Montminy, The CREB coactivator CRTC2 links hepatic ER stress and fasting gluconeogenesis. Nature 460, 534-537 (2009).[PubMed]

W. Wong, Stress and Sugar Rushes. Sci. Signal. 2, ec257 (2009).

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