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発生生物学 
シグナル伝達におけるheartlessなスイッチ

Developmental Biology
A heartless Switch in Signaling

Editor's Choice

Sci. Signal., 11 August 2009
Vol. 2, Issue 83, p. ec264
[DOI: 10.1126/scisignal.283ec264]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : ショウジョウバエの眼の発生において、グリア細胞は増殖し、その他のグリア細胞を横切って眼の成虫原基へと移動し、分化して光受容ニューロンの軸索を包み込む必要がある。Franzdóttirらは、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体であるheartlesshtl)のmRNAが移動中のグリア細胞の前部で発現していることを発見した。ドミナントネガティブ変異体の発現またはRNA干渉(RNAi)によってグリア細胞内のhtl機能が低下すると、グリア細胞の数が減少し、移動および分化が低下した。FGF受容体のリガンドPyramus(Pyr)およびThisbe(Ths)をコードするmRNAがそれぞれグリア細胞および光受容ニューロンで発現していることから、著者らは、発生時のグリア細胞行動の多様な側面を調節するhtlの能力をこれらのリガンドが説明するかもしれないと推測した。増殖および運動性は、グリア細胞内のPyr機能の喪失(Pyrの低形質性対立遺伝子またはPyrに対するRNAiによって惹起)によって低下し、グリア細胞または眼の成虫原基におけるPyrの過剰発現によって亢進した。一方、分化(軸索の包み込みによって評価)はThsに対するニューロン特異的RNAiによって低下し、ニューロンにおけるThsの過剰発現によって亢進した。FGF受容体はDof(Downstream of FGF receptor)を活性化する。予想通りに、グリア細胞特異的Dof機能喪失はHtl機能喪失と同様の影響(グリア細胞数の減少および包み込みグリア数の減少)を示した。DofはRas-MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)経路の低分子量Gタンパク質を刺激し、この経路は次に転写因子を活性化する。Rap1に対するグリア細胞特異的RNAiは増殖および移動を阻害したが、分化は阻害しなかったので、PyrはDofを介して Rap1を活性化すると考えられた。一方、MAPKであるRolledまたは転写因子であるPointedに対するグリア細胞特異的RNAiは分化のみを遮断したので、ThsはRolledおよびPointedを活性化すると考えられた。FGFシグナル伝達はSproutyによって阻害され、光受容ニューロンに到達しているグリア細胞内でsprouty発現が検出された。Sproutyに対するRNAiは過剰な軸索包み込みを誘発したことから、Sproutyは分化グリア細胞内のFGFシグナル伝達を制限すると考えらる。このように、FGF受容体は異なる下流シグナル伝達経路を活性化する2種類のリガンドを介して、眼発生中のグリア細胞活性の2つの異なる側面を調節する。

S. R. Franzdóttir, D. Engelen, Y. Yuva-Aydemir, I. Schmidt, A. Aho, C. Klämbt, Switch in FGF signalling initiates glial differentiation in the Drosophila eye. Nature 460, 758-761 (2009). [PubMed]

W. Wong, A heartless Switch in Signaling. Sci. Signal. 2, ec264 (2009).

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