骨生物学
骨を作るT細胞

Bone Biology
Bone-Building T Cells

Editor's Choice

Sci. Signal., 8 September 2009
Vol. 2, Issue 87, p. ec295
[DOI: 10.1126/scisignal.287ec295]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 骨量は、副甲状腺ホルモン(PTH)に対する持続的な曝露によって減少するが、断続的な曝露によって増大する。PTHに対する断続的な曝露(iPTH)を模倣した1日1回のPTH注射は、骨粗鬆症の治療に利用されている。PTHは、共役受容体LRP5およびLRP6(低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質)を必要とするWntシグナル伝達経路を活性化する。LRP5の機能喪失変異は、ヒトおよびマウスにおいて骨量を減少させるが、マウスにおいてPTHがもつ骨形成を促進する能力を喪失させない。Terauchiらは、持続的PTHに対する骨細胞の応答におけるT細胞の役割を同定した以前の研究を補完するために、iPTHに対する応答におけるT細胞の役割を調べた。骨塩量(BMD)、海綿骨容積(BV/TV)、骨強度、オステオカルシン(骨分化のマーカー)の血清中濃度など、骨形成に関するいくつかの尺度を調べると、野生型マウスは、αβT細胞欠損マウス(TCR β-/- )に比べて、iPTHに対する同化応答が大きかった。TCR β-/- マウスにみられるこのような応答の低下は、iPTHの前に野生型T細胞を養子移植すると回復した。TCR β-/- マウスにCD8+細胞を養子移植するとiPTHに対する応答は回復したが、CD4+T細胞を養子移植しても回復しなかったことから、iPTHに対する同化応答は、主にCD8+細胞によって仲介されている。アルカリホスファターゼ陽性の繊維芽細胞コロニー形成単位(CFU-F)の測定により明らかになった骨芽細胞系へと分化する間質細胞の総数は、野生型マウス由来の骨髄のiPTH処理によって増加したが、TCR β-/- マウス由来の骨髄のiPTH処理では増加しなかった。iPTH処置を受けた野生型マウスの骨髄由来の前骨芽細胞では、TCR β-/- マウスの骨髄由来の前骨芽細胞に比べて、細胞増殖の亢進、アポトーシスの低下、骨芽細胞への分化を示す遺伝子の発現の上昇が認められたほか、Wntシグナル伝達によって活性化される遺伝子の発現の上昇も認められた。CD8+T細胞のiPTH処置は、WntリガンドWnt10bのmRNA量およびタンパク質量を増大させた。Wnt10b-/- マウス由来のT細胞を養子移植しても、TCR β-/- マウスのiPTHに対する応答は回復しなかったことがBV/TV測定およびオステオカルシン濃度による評価で明らかになった。このように、骨芽細胞に対するiPTHの同化作用の一部は、CD8+T細胞を介するWnt10b放出によって仲介されるようである。

M. Terauchi, J.-Y. Li, B. Bedi, K.-H. Baek, H. Tawfeek, S. Galley, L. Gilbert, M. S. Nanes, M. Zayzafoon, R. Guldberg, D. L. Lamar, M. A. Singer, T. F. Lane, H. M. Kronenberg, M. N. Weitzmann, R. Pacifici, T lymphocytes amplify the anabolic activity of parathyroid hormone through Wnt10b signaling. Cell Metabol. 10, 229-240 (2009). [PubMed]

W. Wong, Bone-Building T Cells. Sci. Signal. 2, ec295 (2009).

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