薬理学
ニコチン刺激

Pharmacology
Nicotine Irritation

Editor's Choice

Sci. Signal., 6 October 2009
Vol. 2, Issue 91, p. ec324
[DOI: 10.1126/scisignal.291ec324]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : ニコチンは、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)を活性化する習慣性物質であり、このリガンドによって規定されるリガンド活性化型陽イオンチャネルの一クラスである。禁煙療法にはニコチンの局所適用があるが、パッチに伴う局所不快感や刺激があるために、患者の使用は制限される。Talaveraらは、禁煙治療で用いられるような高濃度ニコチンが、侵害受容ニューロンに存在するカルシウム透過性陽イオンチャネルであり、からし油など冷痛刺激のある化学物質に対する応答を媒介する一過性受容器電位(TRP)ファミリーのメンバーであるTRPA1を活性化することを明らかにした。マウスTRPA1を発現しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は細胞外から作用させたニコチンに反応して遅延電流を示した。ニコチンは無細胞系反転膜パッチでTRPA1を活性化したが、これは無傷細胞における活性化よりも速く、このことから遅延反応の一部は、ニコチンが細胞膜を横切って拡散し、同チャネル内の結合部位に到達することによると考えられた。ニコチンはマウス三叉神経節ニューロンのサブセットにおいてカルシウム一過性電流を刺激し、Trpa1ノックアウトマウスではそれに反応するニューロンの割合が減少した。ニコチンを野生マウスの鼻に作用させると気道狭窄を誘発したが、Trpa1-ノックアウトマウスでは誘発しなかった。これは、タバコに冷却、鎮静、鎮痛効果を付与するために添加される化学物質であるメントールを加えることで阻害された。メントールは、TRPA1発現CHO細胞において、ニコチン誘導電流およびカルシウム過渡電流も失わせた。以上より、TRPA1はこれまで認められていなかったニコチン受容体であり、高濃度ニコチンの刺激作用に寄与すると考えられる。

K. Talavera, M. Gees, Y. Karashima, V. M. Meseguer, J. A. J. Vanoirbeek, N. Damann, W. Everaerts, M. Benoit, A. Janssens, R. Vennekens, F. Viana, B. Nemery, B. Nilius, T. Voets, Nicotine activates the chemosensory cation channel TRPA1. Nat. Neurosci. 12, 1293-1299 (2009). [PubMed]

N. R. Gough, Nicotine Irritation. Sci. Signal. 2, ec324 (2009).

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