がん
生命と受胎能を守る

Cancer
Preserving Both Life and Fertility

Editor's Choice

Sci. Signal., 20 October 2009
Vol. 2, Issue 93, p. ec338
[DOI: 10.1126/scisignal.293ec338]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : がんと診断された若い女性は、その生命を守るために必要な化学療法そのものが、その女性の受胎能を損なうかもしれないという苦渋の現実に直面することがある。さらに、冷凍保存法を活用することもできるが、患者の治療開始の緊急性や、卵巣にがんが浸潤した可能性によって、この利用が制限されることもある(Woodruffによる「Perspective」参照)。Gonfloniらは、5日齢のマウスの卵巣をin vitroで化学療法剤であるシスプラチンに曝露すると、卵巣溶解物に含まれる腫瘍抑制因子であるp63のTAp63-αアイソフォーム量が増大し、DNA二本鎖切断が増大し、大量の卵母細胞のアポトーシスが生じることを発見した。シスプラチンはまた、c-AblチロシンキナーゼをコードするmRNAとタンパク質の量を増大させた。さらにイマチニブでc-Ablを阻害すると、c-Abl mRNAの増大だけでなく、TAp63とアポトーシスの増大も遮断した。テトラサイクリン処理によってTAp63-αの発現を誘導できるコンストラクトを安定的に導入されたヒト骨肉腫細胞株を用いた実験から、シスプラチン誘発性アポトーシスはTAp63-αに依存することが明らかになった。構成的活性化型のc-AblはTAp63をリン酸化し、その量の増大をさせた。変異解析から、これらのリン酸化残基の一つ(Tyr149)と、アポトーシス促進性タンパク質のNOXAとPUMAをTAp63が転写的に誘導する能力との間の関連性が示唆された。雌仔マウスにシスプラチンを腹腔内投与することによって、原始卵胞および一次卵胞が欠乏し、この作用はイマチニブの併用によって顕著に減弱した。さらにイマチニブは、シスプラチン誘発性の不妊を部分的に解消した。このように、著者らは、シスプラチンに応答する卵母細胞の消失に関わる経路を同定し、イマチニブが受胎能保護作用を持つことを明らかにした。イマチニブがシスプラチンの抗腫瘍効果に干渉するかは未だ明らかでない。

S. Gonfloni, L. Di Tella, S. Caldarola, S. M. Cannata, F. G. Klinger, C. Di Bartolomeo, M. Mattei, E. Candi, M. De Felici, G. Melino, G. Cesareni, Inhibition of the c-Abl-TAp63 pathway protects mouse oocytes from chemotherapy-induced death. Nat. Med. 15, 1179-1185 (2009). [PubMed]
T. K. Woodruff, Preserving fertility during cancer treatment. Nat. Med. 15, 1124-1125 (2009). [PubMed]

E. M. Adler, Preserving Both Life and Fertility. Sci. Signal. 2, ec338 (2009).

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

バックナンバー一覧へ