代謝性疾患の進化

Physiology
Evolution of Metabolic Diseases

Editor's Choice

Sci. Signal., 15 December 2009
Vol. 2, Issue 101, p. ec396
[DOI: 10.1126/scisignal.2101ec396]

L. Bryan Ray

Science, Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

要約 : 代謝制御が乱されている患者に一般に見られる疾患は、感染と戦うために必要なエネルギー資源の再分配に対する免疫応答との古代からの結び付きを反映しているかも知れない。これは、ショウジョウバエの原始的な自然免疫系と、インスリンシグナル伝達を介する代謝制御に対する自然免疫系の影響について研究したDiAngeloらの結論である。このハエでは、これらの過程は同一器官、すなわち脂肪体に集中している。脂肪体は、脂質貯蔵の主要器官であるだけでなく、感染に対する応答が循環系へと放出するる抗菌ペプチドを産生される器官でもある。著者らは、感染性細菌の構成要素を認識するToll受容体の活性化によって、インスリンシグナル伝達が阻害されることを見いだした。インスリンシグナル伝達はエネルギー貯蔵および生物の成長を促進する一方で、感染によるストレス時には、エネルギーが炎症性免疫応答によりよく転換されると考えられるので、このような相互作用は生物にとって有益であると考えられる。ハエへの細菌感染はインスリンシグナル伝達(プロテインキナーゼAkt(PKBともいう)のリン酸化として測定)の阻害を引き起こした。脂肪体における恒常的活性化型Tollタンパク質の発現は、活性化インスリン受容体の発現、あるいはインスリンシグナル伝達の下流エフェクターであるホスファチジルイノシトール3-キナーゼの恒常的活性化型の発現によって引き起こされるインスリンシグナル伝達経路の活性化を阻害した。感染応答がエネルギーを成長や発達からそらすという考え方は、脂肪体に活性化Toll受容体タンパク質を発現している幼虫の発達の遅延および成長の低下を示した実験によって裏付けられた。これらの作用は、全身におけるインスリンシグナル伝達の低下と似ており、Akt活性化の低下は脂肪体での変化に応答してインスリンシグナル伝達が全身で阻害されたことを示した。脂肪体で活性化Aktを補充するとこれらの変化が回復することから、脂肪体におけるインスリンシグナル伝達の低下がインスリンシグナル伝達に対する全身的作用をもたらすことを示している。著者らは、この有効なショウジョウバエモデルをさらに解析することによって、過剰な栄養が糖尿病やメタボリックシンドロームの患者における炎症およびインスリンシグナル伝達に対する抵抗性の増大と関連している西洋文化圏で、顕著な疾患の中心になっていると考えられる代謝応答および炎症応答の相互作用に対する洞察が得られるかもしれないと提案している。

J. R. DiAngelo, M. L. Bland, S. Bambina, S. Cherry, M. J. Birnbaum, The immune response attenuates growth and nutrient storage in Drosophila by reducing insulin signaling. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106, 20853-20858 (2009). [Abstract] [Full Text]

L. B. Ray, Evolution of Metabolic Diseases. Sci. Signal. 2, ec396 (2009).

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