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薬理学
耐性型を標的にする

Pharmacology
Targeting the Resistance

Editor's Choice

Sci. Signal., 5 January 2010
Vol. 3, Issue 103, p. ec1
[DOI: 10.1126/scisignal.3103ec1]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

エルロチニブやゲフィチニブのような、臨床的に有効な上皮増殖因子受容体(EGFR)のキナーゼ活性の阻害薬の発見は、非小細胞 肺がん(NSCLC)の治療に新たな道を開き、合理的な薬物設計の可能性を示した。最もよく起こる発がん性突然変異は、これらの薬物に対する親和性を高 め、EGFRのATPに対する親和性を低下させた。残念ながら、「門番役」のアミノ残基Thr790がMetに変わる突然変異(T790M)によって、一部のがんは薬物耐性を獲得する。この変異型EGFRに対して有効で利用可能な阻害薬は、野生型EGFRをも阻害し、患者に投与される際に用量規定毒性を示す。そこでZhouらは、Cys797と 共有結合を形成することによってT790M型EGFRと不可逆的に反応する化合物を探すためのスクリーニングを考案した。そして彼らは、WZ3146、 WZ4002、WZ8040という3つの関連するピリミジン化合物を同定した。これらは、ゲフィチニブ感受性および耐性のNSCLC細胞株、あるいは T790M変異型EGFRを発現するように遺伝的操作された細胞ではEGFRの活性とシグナル伝達を阻害したが、野生型EGFRをもつ細胞株には毒性を示 さなかった。400個のキナーゼを含むパネルで調べたところ、WZ4002はEGFRに対する選択性が最も高く、野生型EGFRをもつ細胞の増殖を阻害す る活性は最も弱かった。EGFRの活性化変異体をもつ細胞にWZ4002を投与すると、T790M耐性変異の発生は起こらなかった。このことは、 WZ4002がNSCLCの第一選択治療となりうることを示唆する。T790M変異をもつマウス肺がんモデルをWZ4002で治療すると、EGFRと下流 標的タンパク質のリン酸化が阻害され、マウス肺内のアポトーシスと腫瘍退縮が亢進した。これとは対照的に、野生型EGFRの活性部位であるマウス毛球で は、WZ4002はEGFRのリン酸化を阻害しなかった。結晶化によってこれらの化合物の選択性の構造基盤が明らかにされ、予測どおりにCys797との共有結合が形成されて変異型の門番役残基と相互作用していることが示された。合理的な薬物設計がまたひとつ勝利を収めたということである。

W. Zhou, D. Ercan, L. Chen, C.-H. Yun, D. Li, M. Capelletti, A. B. Cortot, L. Chirieac, R. E. Iacob, R. Padera. J. R. Engen, K.-K. Wong, M. J. Eck, N. S. Gray, P. A. J?nne, Novel mutant-selective EGFR kinase inhibitors against EGFR T790M. Nature 462, 1070-1074 (2009). [PubMed]

N. R. Gough, Targeting the Resistance. Sci. Signal. 3, ec1 (2010).

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