代謝
BMPは代謝を調節する

Metabolism
BMPing Up Metabolism

Editor's Choice

Sci. Signal., 12 January 2010
Vol. 3, Issue 104, p. ec7
[DOI: 10.1126/scisignal.3104ec7]

Annalisa M. VanHook

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

骨形成タンパク質(BMP:bone morphogenetic protein)は、これまで長い間、ヒドラからヒトまでの多様な動物において、またその様々な組織と様々な発生段階において、パターン形成と形態形成の 過程を調節すると認識されてきた。またBMPは、哺乳動物の脂肪細胞の運命を決定する役割も果たしており、Ballardらの報告によれば、このようなサ イトカインの1種であるGbb(glass bottom boat、哺乳動物BMP5,6,7,8のオルソログ)はショウジョウバエ(Drosphila melanogaster)の脂質代謝を調節している。Gbbの名称は、gbb機 能喪失変異の幼虫では脂肪体(脂肪と糖を貯蔵する器官)の混濁性が低下しているため、ほぼ透明であることに由来する。Ballardと共同研究者らは、こ れらの変異体は発生段階の進行の遅れも示し、全体のサイズも小さく、脂肪体に脂質が異常蓄積し、その表現型は低栄養の野生型(WT)幼虫やラパマイシン標 的タンパク質(TOR)のシグナル伝達変異体に類似していることを示した。gbb幼虫はTor変異体と同様に、体重に対する脂質と糖の 割合がWT幼虫に比べて顕著に低く、蛍光標識した脂肪酸(C12)の腸上皮による取込みが亢進しており、飢餓応答が活性化されていることが示唆された。 WT幼虫の脂肪体ではgbb mRNAとリン酸化Mad(pMad)の両方が検出されたが、gbb変異型幼虫では検出されなかった。組織特異的RNA干渉法によりWT幼虫の脂肪体中のgbbをノックダウンすると、幼虫の透明性とC12の取り込み亢進というgbbの表現型が再現された。またGbb受容体Saxの恒常的活性型をgbb変 異体の脂肪体に遺伝子導入によって発現させると、これらの表現型がレスキューされた。低栄養のWT幼虫では通常餌の対照に比べ、核内のpMad量が減少し ており、このことは、Gbbシグナル伝達が代謝を調節することに加えて、代謝状態にも応答することを示唆する。飢餓状態のWT幼虫と通常餌のgbb変 異体は多くの表現型を共有しているが、この2種類の幼虫において、転写段階で調節される一連の遺伝子が(部分的に重複しているが)異なっていたという観察 から明らかにされたように、これらの表現型は分子的に異なる過程に依存していた。ハエとヒトでは、栄養の貯蔵と動員について多くの調節分子が保存されてい ることから、BMPは脂肪組織のパターン形成に重要な役割を果たすのみでなく、エネルギーの恒常性も調節している可能性がある。

S. L. Ballard, J. Jarolimova, K. A. Wharton, Gbb/BMP signaling is required to maintain energy homeostasis in Drosophila. Dev. Biol. 337, 375-385 (2010). [PubMed]

A. M. VanHook, BMPing Up Metabolism. Sci. Signal. 3, ec7 (2010).

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2010年1月12日号

Editor's Choice

代謝
BMPは代謝を調節する

Research Article

O-GlcNAc化とリン酸化の広範なクロストークが細胞質分裂を調節する

定量的リン酸化プロテオミクスによって有糸分裂時の広範囲に及ぶ完全なリン酸化部位占有が明らかに

Perspectives

環状ヌクレオチドは褐色脂肪組織の分化に収斂する

Reviews

ATPの基礎放出:細胞調節のための自己分泌−傍分泌機構

最新のEditor's Choice記事

2024年2月27日号

ccRCCでTBK1を遮断する方法

2024年2月20日号

密猟者がT細胞内で森の番人に転身した

2024年2月13日号

RNAが厄介な状況を生み出す

2024年2月6日号

細胞外WNT伝達分子

2024年1月30日号