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分子生物学
一人二役のマイクロRNA:破壊とおとり
Molecular Biology
Double-Duty MicroRNA: Destroy and Decoy
Sci. Signal., 9 March 2010
Vol. 3, Issue 112, p. ec71
[DOI: 10.1126/scisignal.3112ec71]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
フィラデルフィア染色体として知られる染色体転座を有する患者は、慢性骨髄性白血病(CML)を引き起こすBCR/ABLと呼ばれる発がん性融合タ ンパク質を産生する。BCR/ABLは、白血球分化にとって重要な転写因子C/EBPαをコードするmRNAの翻訳を抑制するhnRNP E2と呼ばれるRNA結合タンパク質の活性を亢進させる。hnRNP E2とC/EBPαコードmRNAの間の相互作用には、mRNAの 5'非翻訳領域にあるシトシン(C)リッチ領域が関与する。「急性転化期」(CML-BC)患者の細胞は、「慢性期」(CML-CP)患者の細胞に比べ て、hnRNP E2は存在量が多く、C/EBPα産生を抑制している。Eiringらは、CMP-CP細胞に比べてCML-BC細胞で減少しているマイクロ RNA(miRNA)をスクリーニングし、miR-328にはC/EBPαコードmRNAと同様のCリッチ領域が含まれることから、miR-328に注目 した。複数のアッセイによって、miR-328はhnRNP E2と相互作用し、hnRNP E2結合に関してC/EPBaをコードするmRNAと競合することが明らかになった。予期せぬことに、hnRNP E2とmiR-328の複合体にはmRNAサイレンシングに関与するタンパク質は含まれず、またhnRNP E2とmiR-328の相互作用はmiRNA-mRNA相互作用に関与するmiR-32「シード」配列を必要としなかった。BCR/ABL形質転換細胞に おいてmiR-328またはシード突然変異型の強制発現はこれらの細胞の分化能を回復させた。C/EBPα量はmiR-328の強制発現によって増大した が、C/EBPαをコードするmRNA量の増大やhnRNP E2量の減少を伴わなかったことから、miR-328の非サイレンシング機能が示唆された。in vitro網状赤血球抽出液アッセイ および細胞アッセイを用いて、C/EBPαの翻訳を促進するmiR-328の能力が確認された。miR-328を強制発現したBCR/ABL芽球と強制発 現していないBCR/ABL芽球を注射したマウスの生存に差はなかったが、miR-328発現細胞を注射した動物はCML-CPに類似する表現型を示した のに対して、miR-328を強制発現していない芽球を注射した動物はCML-BC表現型を示した。最後に、著者らは、miR-328はmRNAサイレン シングmiRNAとして作用し、BCR/ABL細胞の生存にとって重要なキナーゼPIM1の産生を抑制することを示した。このように、miR-328は二 役を果たすmiRNAであり、転写抑制RNA結合タンパク質(hnRNA E2)の競合阻害因子としてタンパク質合成を促進するとともに、RNAサイレンサーとしてタンパク質合成を抑制する(Beitzingerおよび Meisterのコメント参照)。
A. M. Eiring, J. G. Harb, P. Neviani, C. Garton, J. J. Oaks, R. Spizzo, S. Liu, S. Schwind, R. Santhanam, C. J. Hickey, H. Becker, J. C. Chandler, R. Andino, J. Cortes, P. Hokland, C. S. Huettner, R. Bhatia, D. C. Roy, S. A. Liebhaber, M. A. Caligiuri, G. Marcucci, R. Garzon, C. M. Croce, G. A. Calin, D. Perrotti, miR-328 functions as an RNA decoy to modulate hnRNP E2 regulation of mRNA translation in leukemic blasts. Cell 140, 652-665 (2010). [Online Journal]
M. Beitzinger, G. Meister, MicroRNAs: From decay to decoy. Cell 140, 612-614 (2010). [Online Journal]
N. R. Gough, Double-Duty MicroRNA: Destroy and Decoy. Sci. Signal. 3, ec71 (2010).