- ホーム
- 神経科学 局所に留めよ
神経科学
局所に留めよ
Neuroscience
Keeping It Local
Sci. Signal., 20 April 2010
Vol. 3, Issue 118, p. ec114
[DOI: 10.1126/scisignal.3118ec114]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)はGDNFファミリーリガンド(GFL)のメンバーであり、さまざまな状況において長距離栄養因子として も局所栄養因子としても働く。ニューロンは高度な極性を有する細胞なので、栄養因子とその受容体の細胞体への逆行輸送は、遠位軸索によって検出されたシグ ナルが、細胞の生存と増殖を支えることを可能にする。GDNFは、その受容体が存在するすべての種類のニューロンにおいて逆行輸送されるわけではない。例 えば、GDNFは上頸神経節(SCG)の交感神経ニューロンでは逆行輸送されないが、後根神経節(DRG)の一部の感覚ニューロンでは逆行輸送される。 TsuiとPierchalaは、軸索の細胞外空間を細胞体の細胞外空間から分離する区分化培養系を用いて、この違いが生じる機構、およびその違いがもた らす機能的影響について検討した。この系で神経成長因子(NGF)を添加すると、その受容体の活性型がどちらのタイプのニューロンでも逆行輸送され、遠位 軸索にNGFを適用するとニューロンの生存を支持した。これに対して、遠位軸索に適用したGDNFはDRGニューロンの生存のみを支持し、SCGニューロ ンの生存は支持しなかった。DRG、SCGいずれのニューロンでも、GDNFのリン酸化活性化受容体であるRet51が、GDNFに曝露した遠位軸索中に 検出された。しかし、SGCニューロンではリン酸化および非リン酸化Ret51の存在量が減少した。DRGニューロンでは、GDNFを24時間適用した場 合でさえも、遠位軸索および細胞体のいずれでも活性型Ret51が検出され続けた。培養SCGの遠位軸索コンパートメントにGDNFとともにプロテアソー ム阻害剤を加えると、GDNFを細胞体に直接与えた場合と同様に効率良く生存を促進し、活性化されたRet51が安定化され、細胞体で検出された。ニュー ロン中には複数のGDNF受容体が存在すると考えられ、Ret51とRet9はいずれもSCGニューロンとDRGニューロンに検出された。Ret51は Ret9よりも迅速に細胞内移行して分解されることが知られており、SCGニューロンにはRet51がRet9よりも多く含まれていた。一方、DRG ニューロンにはRet9の方がRet51よりも多く含まれていた。Ret9のみを有するよう操作したマウス由来の培養SGCでは、これらのニューロンの遠 位軸索に適用したGDNFが、NGFと同様に効率良く生存を促進した。以上により、Ret51とRet9の存在比の差、およびSCGニューロン遠位軸索に おけるRet51の迅速な分解が、GDNFをSCGニューロンに対しては局所シグナルとして、DRGニューロンに対しては長距離シグナルとして働かせてい ると考えられる。
C. C. Tsui, B. A. Pierchala, The differential axonal degradation of Ret accounts for cell-type-specific function of glial cell line-derived neurotrophic factor as a retrograde survival factor. J. Neurosci. 30, 5149-5158 (2010). [Abstract] [Full Text]
N. R. Gough, Keeping It Local. Sci. Signal. 3, ec114 (2010).