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神経科学
鍼治療はアデノシンによって痛みを緩和する

Neuroscience
Pricking Out Pain with Adenosine

Editor's Choice

Sci. Signal., 13 July 2010
Vol. 3, Issue 130, p. ec209
[DOI: 10.1126/scisignal.3130ec209]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

鍼治療は、針を刺して回転させたり、加熱したり、電気的刺激を与えたりして痛みを軽減する古来の手技である(Zylka参照)。Goldmanら は、マウスの「足三里(Zusanli)」(膝下にあるツボ)に鍼を打つと痛覚が生じ、アデニンヌクレオチド(ATP、ADP、AMP)とアデノシンの局 所的濃度が上昇することを見出した。ATPの細胞外濃度は鍼施術の30分後にはベースラインまで急激に回復したのに対して、ADP、ATP、アデノシンの 濃度は施術の1時間後も上昇したままであった。アデノシンには、A1受容体(A1R)を介する抗侵害特性がある。2つの異なる疼痛モデルでは、A1Rのアゴニストを足三里に注射した場合にも痛みが軽減されたが、A1R欠損マウスでは、鍼治療もA1Rアゴニストも痛みを軽減する効果を示さなかった。足からの疼痛シグナルを受ける脳領域である前帯状皮質の応答をin vivoで記録することによって、Goldmanらは、同側の脚に鍼治療またはA1R アゴニストを施術すると、いずれの場合も、足の疼痛性ショックに応答する興奮性シナプス後場電位の振幅が抑えられることを示した。対照的に、対側の脚への 施術では、足の疼痛性ショックに応答するこの脳領域の活性を軽減できなかった。これらの分子を代謝する酵素であるAMPデアミナーゼとアデノシンデアミ ナーゼの両方をデオキシコホルマイシン(臨床承認済みの抗がん薬)の投与によって全身で阻害すると、鍼施術後のAMPおよびアデノシンの局所濃度上昇の持 続時間が延長され、鍼治療の鎮痛作用の持続時間が増した。この研究は、鍼治療の基本機構を提示するとともに、鍼治療とアデノシン代謝の薬理学的阻害を併用 することによって鍼治療で軽減できる痛みのタイプを拡張できるかもしれないことを示唆する。

N. Goldman, M. Chen, T. Fujita, Q. Xu, W. Peng, W. Liu, T. K. Jensen, Y. Pei, F. Wang, X. Han, J.-F. Chen, J. Schnermann, T. Takano, L. Bekar, K. Tieu, M. Nedergaard, Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture. Nat. Neurosci. 13, 883-888 (2010). [PubMed]

M. J. Zylka, Needling adenosine receptor for pain relief. Nat. Neurosci. 13, 783-784 (2010). [PubMed]

N. R. Gough, Pricking Out Pain with Adenosine. Sci. Signal. 3, ec209 (2010).

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2010年7月13日号

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鍼治療はアデノシンによって痛みを緩和する

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