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ストレスシグナル伝達
小胞体を受け継ぐ

Stress Signaling
Inherit the ER

Editor's Choice

Sci. Signal., 3 August 2010
Vol. 3, Issue 133, p. ec236
[DOI: 10.1126/scisignal.3133ec236]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

有糸分裂の際に、小胞体(ER)は新たに形成されるのではなく、母細胞と娘細胞の間で分配される。核周囲型ER(核の近くに位置する)の継承には、表層型ER(細胞膜の近くに位置する)とは異なる機構が存在する。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで は、ERストレスが細胞質分裂の異常を引き起こして細胞周期を遅らせることから、Babourらは、この過程(著者らはERストレス監視と呼んでいる)に 寄与する機構を明らかにしようとした。細胞質分裂では、セプチンが集合して母細胞の出芽のくびれ部分(bud neck)で環状構造を構築する必要がある。著者らは、ツニカマイシンやジチオスレイトール(DTT)の処理に起因するERストレスを受けている細胞で も、非許容温度でERストレスを誘発するERO-1(ER oxidoreductin I)をコードしている遺伝子の温度感受性型であるero-1-1の発現に起因するERストレスを受けている細胞でも、このセプチン環状構造体(セプチンリング)が形態異常を示し、細胞内に分散していないことを見出した。ツニカマイシンは、セプチンリングを安定化させ、セプチンサブユニットをコードする遺伝子の温度感受性型を発現するcdc12-6細 胞におけるセプチンリングの会合異常を回復させた。ERマーカーを発現している細胞の画像解析によって、ストレスを受けていない細胞では表層型ERが細胞 周期の早い段階で娘細胞へと継承されるのに対して、ストレスを受けている細胞では表層型ERの継承が遅れることが示された。対照的に、核周囲型ERの娘細 胞への分配は、ERストレスによる影響を受けなかった。マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のSlt2を欠失する細胞では、ERストレス後 に細胞質分裂の異常はみられず、セプチンリングの形態は正常であり、表層型ERの継承の遅れは野生型細胞に比べて小さかった。この表現型の回復には、 Slt2のリン酸化とキナーゼ活性だけでなく、Slt2の上流活性化因子であるPkc1と細胞表面受容体のWsc1が必要であった。Wsc1は細胞壁の完 全性のシグナル伝達経路に関与し、過剰な膨圧に応答して活性化されうるが、細胞壁ストレスはセプチンリングの形態変化を誘発しなかった。さらに、細胞壁の 完全性のシグナル伝達経路におけるWsc1の役割にはWsc1のエンドサイトーシスが必要であるが、エンドサイトーシスされない変異型のWsc1を発現す る細胞は、ツニカマイシン存在下での増殖の欠陥を示さなかった。このように、MAPK経路は、細胞がERストレスを受けている場合には表層型ERの継承を 遅らせる。それによって、機能的なERを娘細胞に確実に受け継がせる役目を果たしているのだと著者らは主張している。

A. Babour, A. A. Bicknell, J. Tourtellotte, M. Niwa, A surveillance pathway monitors the fitness of the endoplasmic reticulum to control its inheritance. Cell 142, 256-269 (2010). [PubMed]

W. Wong, Inherit the ER. Sci. Signal. 3, ec236 (2010).

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2010年8月3日号

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