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がん悪液質
失ったものを取り戻す
Cancer Cachexia
Reversing Your Losses
Sci. Signal., 24 August 2010
Vol. 3, Issue 136, p. ec255
[DOI: 10.1126/scisignal.3136ec255]
Elizabeth M. Adler
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
進行性のがんは、著しい体重減少と筋肉消耗を伴う悪液質を併発することが多く、悪液質はがん死亡のかなりの割合を占める (Tisdaleの解説記事参照)。Zhouらは、2型アクチビン受容体ActRIIBを介したシグナル伝達が種々のがんに関連すること、さらにドミナン トネガティブ型のActRIIBが筋肥大を引き起こすことに注目し、がん悪液質のマウスモデルにおいて、ActRIIBシグナル伝達の遮断の効果について 検討した。Zhouらは、組換え型の可溶性ActRIIBデコイ受容体(sActRIIB)が、C2C12筋芽細胞においてミオスタチンやアクチビンを介 するSmad2/3シグナル伝達を抑制することを確認した後に、致死的な消耗症候群を起こすコロン26担がんマウス(C26マウス)にsActRIIBを 投与した。悪液質が発症した時点または進行した段階でsActRIIBを投与すると、体重減少が改善され、延命効果があった。また、筋肉量減少が阻止さ れ、握力が上昇したが、脂肪減少、腫瘍増殖、あるいはインターロイキン-6(IL-6)、IL-1β、腫瘍壊死因子αなどの炎症性サイトカインの血清中存 在量には変化はなかった。さらに、心萎縮が抑制された。sActRIIBは、性腺腫瘍を自然発症するインヒビン欠損マウス(インヒビンαKOマウス)にお いても、筋肉消耗と食欲不振の改善、心萎縮の抑制、延命効果をもたらした。アクチビンAを導入したCHO細胞またはアクチビンを分泌するヒト腫瘍株を移植 されたヌードマウスは、悪液質を発症した。これらは、アクチビン(前者のグループ)またはsActRIIB(後者)に対する抗体によって阻止された。実際 にsActRIIBは、最後に挙げたグループにおいて、インヒビンαKOマウスと同様に、腫瘍増殖を抑制した。sActRIIBはさらに、C26マウスま たはインヒビンαKOマウスの筋肉において、ユビキチンやE3リガーゼAtrogin-1およびMuRF1をコードするmRNAの増加、ユビキチン結合の 促進、Smad2およびAktシグナル伝達の亢進、FOXO3aの存在量および活性の増大などのさまざまな異常を阻止した。形態計測分析によって、 sActRIIBはインヒビンαKOマウスの筋肥大を促進することが明らかになり、これらのマウスと野生型マウス両方のin vivo解 析によって、ブロモデオキシウリジンと筋幹細胞マーカーで標識される筋線維核の数が増加していることがわかった。したがって著者らは、ActRIIBシグ ナル伝達に拮抗することが、がん悪液質を治療し、それによって延命をもたらすための方法になる可能性があると結論づけている。
X. Zhou, J. L. Wang, J. Lu, Y. Song, K. S. Kwak, Q. Jiao, R. Rosenfeld, Q. Chen, T. Boone, W. S. Simonet, D. L. Lacey, A. L. Goldberg, H. Q. Han, Reversal of cancer cachexia and muscle wasting by ActRIIB antagonism leads to prolonged survival. Cell 142, 531-543 (2010). [PubMed]
M. J. Tisdale, Reversing cachexia. Cell 142, 511-512 (2010). [PubMed]
E. M. Adler, Reversing Your Losses. Sci. Signal. 3, ec255 (2010).