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微生物学
ハトの糞が健康に良くない理由
Microbiology
Why Pigeon Doo May Be Bad for You
Sci. Signal., 16 November 2010
Vol. 3, Issue 148, p. ec346
[DOI: 10.1126/scisignal.3148ec346]
L. Bryan Ray
Science, Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
アフリカの一部の地域では、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)と呼ばれる 酵母様のヒト病原体が、感染による死亡の主な原因になっている。その病原性は、接合サイクルおよび感染性胞子の産生と関連がある。この生物はそのサイクル の大部分の時間を無性状態で過ごす。しかし、接合を引き起こすことができる刺激のひとつはハトの糞が堆積固化してできるグアノとの接触であり、その結果接 合フェロモンMFαの産生の亢進が起こる。タンパク質Vad1(virulence-associated DEADの略。D-E-A-DはAsp-Glu-Ala-Aspの配列を表す1文字コード)は、C. neoformansの病原性を 調節し、mRNAをP体にリクルートするタンパク質(RNAヘリカーゼであるRCK/p54の関連タンパク質)のファミリーと配列相同性を示す(リクルー トされたmRNAはP体で分解される)。Parkらは、Vad1の標的となりうるものを同定するためにVad1と共に免疫沈降するmRNAをC. neoformansか らスクリーニングし、もっとも高度に濃縮されるmRNAのうちのひとつがMFα1をコードすることを見出した。さらに詳しい解析によって、MFα1 mRNAの量はVad1を欠失させた細胞で増大し、Vad1を過剰発現する細胞で減少することが示された。そのために、著者らは、通常の無性生殖サイクル 中の酵母細胞は、実際に細胞内に保持している量の17倍量の接合フェロモン転写物を産生したうえで、それをすぐに分解しているのだろうと推測した。このよ うな「無益サイクル(futile cycle)」は、刺激に対して迅速に応答する機構を提供する。著者らは、筋肉代謝の場合と同じように(フルクトース6-リン酸のリン酸化と脱リン酸化の 無益サイクルのおかげで、リン酸化と脱リン酸化の速度をわずかに変化させるだけで、筋収縮中の糖新生に必要なフルクトース1,6-ビスリン酸を迅速に産生 することができる)、酵母のmRNA産生の無益サイクルが、接合しやすい条件下での転写物の迅速な蓄積を可能にするのかもしれないと考えた。実際に、接合 の機会を直ちに奪うことのある微風や小波の影響を受けやすい非運動性の生物にとって、好機に機敏に応答することは重大な意味を持ちうる。この解釈と一致す るように、ハトのグアノを補充した培養液中での培養によって接合を誘発された酵母でVad1発現を構成的に上昇させると、接合はできるものの、その過程に は約10時間の遅延がみられた。
Y.-D. Park, J. Panepinto, S. Shin, P. Larsen, S. Giles, P. R. Williamson, Mating pheromone in Cryptococcus neoformans is regulated by a transcriptional/degradative "futile" cycle. J. Biol. Chem. 285, 34746-34756 (2010). [Abstract] [Full Text]
L. B. Ray, Why Pigeon Doo May Be Bad for You. Sci. Signal. 3, ec346 (2010).