神経科学
炎症の減退

Neuroscience
Inflammatory Decline

Editor's Choice

Sci. Signal., 7 December 2010
Vol. 3, Issue 151, p. ec368
[DOI: 10.1126/scisignal.3151ec368]

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

術後認知機能低下(Postoperative cognitive decline:POCD)は、術後患者(とくに高齢患者)の7〜26%で生じる持続性の認知機能障害であり、認知症および死亡率の増大を引き起こす。こ の機構は不明であるが、炎症が何らかの役割を果たすことが示唆されている(Steinmanによる解説参照)。Terrandoらは、全身麻酔下での整形 外科手術のマウスモデルでPOCDを調べた。術後の動物の血中でもっとも早期に検出されたサイトカインは腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)であったが、数時間後にはインターロイキン6(IL-6)やIL-1β(以前からマウスのPOCDと関連づけられている)などの他 の炎症促進性サイトカインもみられた。このような炎症応答に先立ち、損傷関連分子パターン(damage-associated molecular pattern:DAMP)分子であるHMGB-1が壊死細胞から放出された。術前マウスにTNF遮断抗体を投与すると、全身性のIL-1β産生が抑制さ れたが、この抗体を術後に追加しても効果はなかった。また、このTNF抗体は、術後マウスの海馬に蓄積されるIL-1βの量を減少させ、神経機能を破壊す る化合物を放出しうるミクログリアの活性化を低下させた。術後マウスは、恐怖条件付け文脈学習応答の欠如を示し、手術を受けていないマウスの場合と比べ て、海馬依存的記憶が損なわれていることが示唆された。術前にTNF抗体を投与すると、この海馬機能障害は予防された。これらのデータを考え合わせると、 関節リウマチなどの炎症状態を有する患者ですでに使用されているTNF遮断抗体による術前処置が、POCDに対する有効な治療になるかもしれない。

N. Terrando, C. Monaco, D. Ma, B. M. J. Foxwell, M. Feldmann, M. Maze, Tumor necrosis factor-{alpha} triggers a cytokine cascade yielding postoperative cognitive decline. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 107, 20518-20522 (2010). [Abtstract] [Full Text]

L. Steinman, Modulation of postoperative cognitive decline via blockade of inflammatory cytokines outside the brain. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 107, 20595-20596 (2010). [Full Text]

J. F. Foley, Inflammatory Decline. Sci. Signal. 3, ec368 (2010).

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