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Wntシグナル伝達
封じ込め?

Wnt Signaling
Confined to Quarters?

Editor's Choice

Sci. Signal., 4 January 2011
Vol. 4, Issue 154, p. ec1
[DOI: 10.1126/scisignal.4154ec1]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

正常な発生に欠かせない、標準的なWnt/β-カテニン経路を介するシグナル伝達は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)によるβ-カテニンのリン酸化の抑制に依存する。これによって、β-カテニンはプロテアソームによる分解から逃れ、標的遺伝子の転写を活性化することが可能になる。GSK3の抑制は、Wntが共受容体であるFrizzledと低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質6(LRP6)に結合し、多タンパク質からなるシグナロソームの形成によって惹起される一連の事象に続いて生じる(NiehrsおよびAcebron参照)。Taelmanらは、Wntシグナル伝達におけるWnt結合受容体複合体のエンドサイトーシスの重要性に注目し、GSK3の抑制が、エンドソーム多胞体(MVB、エンドソーム膜の陥入によって形成される内部小胞を含む細胞小器官)内にGSK3が隔離されることに依存すると仮定した。GSK3-RFP(赤色蛍光タンパク質で標識したGSK3)を発現するマウス3T3細胞をxWnt8-Venusを発現するヒト293T細胞と共培養し、蛍光顕微鏡観察したところ、GSK3-RFPがサイトゾルで減少し、xWnt8-Venusを有する小胞に共局在することが明らかになった。さらに、恒常的活性型のLRP6、あるいはWntシグナル伝達の他のメディエーターを発現させると、内因性GSK3が酸性pHの小胞(MVBおよびリソソームの特徴)への移行を促進し、そこで内因性GSK3は後期エンドソームマーカーと共局在した。細胞膜を透過性にしたL細胞を用いてアッセイすると、Wntシグナル伝達によって、サイトゾルのGSK3活性の低下が起こり、その活性の低下は細胞内の膜の可溶化後に回復すること、またGSK3がプロテイナーゼK消化から保護されることが明らかになった。実際に、低温免疫電子顕微鏡観察によって、Wntシグナル伝達はGSK3のMVBへの移行を促進することが確認された。哺乳類の肝細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ基質(HRS、Vps27とも呼ばれる)に対する低分子干渉RNAを用いた実験、あるいはドミナント・ネガティブ型のVps4をを用いた実験によって、エンドソームの内部小胞の形成に必要なESCRT(輸送に必要なエンドソームソーティング複合体)装置のこれらの2つの成分は、Wntシグナル伝達にも必要であることが明らかになった。バイオインフォマティクス解析の結果、ヒトプロテオームの20%に2ヵ所以上の潜在的GSK3リン酸化部位が含まれることが判明した。興味深いことに、放射性標識タンパク質を含む細胞の解析によって、Wntシグナル伝達(またはGSKの抑制)は多くの細胞タンパク質の半減期を延長させることが示唆された。以上より、著者らは、標準的なWntシグナル伝達はMVB内へのGSK3の隔離を伴い、β-カテニンに加えて、多数の基質の安定化をもたらすと提唱している。

V. F. Taelman, R. Dobrowolski, J.-L. Plouhinec, L. C. Fuentealba, P. P. Vorwald, I. Gumper, D. D. Sabatini, E. M. De Robertis, Wnt signaling requires sequestration of glycogen synthase kinase 3 inside multivesicular endosomes. Cell 143, 1136-1148 (2010). [PubMed]

C. Niehrs, S. P. Acebron, Wnt signaling: Multivesicular bodies hold GSK3 captive. Cell 143, 1044-1046 (2010). [PubMed]

E. M. Adler, Confined to Quarters? Sci. Signal. 4, ec1 (2011).

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2011年1月4日号

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